読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 1 禍つ星」

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 この人の本をほんと久しぶりに読んだのだが、これがめっぽうおもしろい。もう、最高ってのを突き抜けちゃって、いったいどういう賛辞を送ったらいいのかわからないくらいおもしろかったのだ。

 なんせ、この人のSFには少々痛い目にあってますからね。ほら、あの「サンドキングス」ですよ。

 傑作短編集だっていうから、まだ復刊される前にネットで探して読んだんだけど、これがまったくの期待ハズレ。何が良いのか正直ぜんぜんわからなかった。これならまだベスターの「虎よ、虎よ」のほうがおもしろいんじゃないかと思ったくらいなのだ。

 だから、本書も本当は読むまでビクビクものだったのだ。でも、ほら、このブログでも何度も言及している大傑作ホラー「皮剥ぎ人」のマーティンでしょ?やはり見過ごすこともできないなと思って、なんとなく読み始めたわけなのです。で、よく傑作本を紹介するときに使われるんだけど、寝転びながら読んでてガバッと起き直ってしまったなんて形容があるでしょ?丁度本書を読んでて、そういう感じになっちゃったわけ。こりゃ、只事じゃないぞと思いました。なんせ、久しぶりにワクワクドキドキがとまらないなんて体験しちゃったもんだから、おじさん、興奮しちゃってるわけなのだ。

 そろそろ本書の内容についても触れなければいけませんな。本書の主人公はタイトルにも出ているタフなのである。表紙を見てもらえればわかるように肌の色が異様に白く、毛がまったく生えてないのもさることながら、でっぷりと太った身体は身の丈2メートルもある大男なのである。はっきりいって、異形の男だ。この男、登場したときは只の貧乏商人だったのだが、第一話の「禍つ星」で、千年前に遺棄された地球連邦帝国環境エンジニアリング兵団(ECC)の生物戦争用超巨大胚葉船を手に入れてしまうのである。これはとんでもない船で、全長30キロメートル、幅3キロメートルもある桁外れに巨大な船なのだが、別名『方舟号』と呼ばれるだけあって、船内には全宇宙中に生息する生き物のクローンがストックされており、それをいつでも生育させる設備が整っているのである。また、生物戦争用というだけあって、数々の疫病のストックも完備しているという使い方によったら、とんでもなく怖い船なのだ。で、それを手に入れるまでの過程を描いたのが第一話「禍つ星」。もう、これを読んだ段階で歓喜に打ち震えてしまった。科学者やブローカーやサイバネティックからなる一癖も二癖もある連中と共に出発する宝探しの旅、目的は『禍つ星』と呼ばれている「方舟号」だ。しかし、船を目前に仲間割れが起こる。また方舟号からもプログラミングされた妨害措置があり、おいそれとは船に近づけない。やっとのことで中に入るが、そこには更に恐ろしい迎撃が待っていたのである。う~ん、素晴らしい。エンタメ路線まっしぐらって感じの第一話だ。これで心をがっちり掴まれない人がいたら、お目にかかりたいものである。それに、このタフの言動が慇懃でまことに特徴的。執事的な物言いは、回りくどいがゆえに笑いを誘う。また、うれしいことにタフは無類の猫好きなのだ。ぼくは久しぶりに本を読んでいて、猫の温かくてしなやかな身体を抱きしめたくなってしまった。その芳しいお腹にギュッと顔を押し付けたくなった。

 そんなこんなで第二話以降は、方舟号を手に入れたタフが様々な惑星に赴き、そこで起きている深刻な問題を環境エンジニアリングとしてズバズバっと解決していく話が語られるのである。これがまた、多くの見せ場満載の満漢全席で、もう、読んでみて!というしかないのだが、びゅんびゅんページが飛び去っていくほどにおもしろいのだ。
 
 いやあ、久しぶりに長々と書いちゃったよ。これ、ほんと近年稀にみる傑作だと思うのだ。このシリーズ既存の本はあと一冊で終わりなのだが、作者はまだまだ続きを書く意志があるみたいなので、次の「タフの方舟 2 天の果実」を読みながら鶴首して待ちたいと思う。はやく書いてくれないかなぁ。