読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2009年 年間ベスト発表!

いよいよこのランキングの時期となりましたね。ブログ仲間さんの間でも続々と年間ベストの記事が書か

れていて、それぞれ個性が感じられて非常におもしろい。というわけで、ぼくも年間ベストを粛々と発表

したいと思います。

ところで、今年読んだ本なのですが、現時点で冊数にして106冊。これは上下本なども一冊づつカウン

トしての冊数でありまして、いまのところこれがぼくのMAX読書量のようです^^。

尚、今年はゆきあやさんのリクエストもありまして、国内/海外に分けての発表とさせていただきます。

では早速いってみましょうか。ちょっと長くなるけど我慢してね。


【 国内編 】

■1位■ 「虐殺器官」、「ハーモニー」伊藤計劃早川書房

 今年の春に出会い、貪るようにこのニ冊を読んで至福の時間を過ごした。だが、そうしてる間に作者は
若くして鬼籍に入られた。なんとも複雑な気持ちである。こんな素晴らしい作家がいたんだという喜びが
瞬時にして落胆に変わったのだ。こういう体験はあまりしたことがないので、正直ショックだった。そう
いった意味もこめて、このニ冊は個人的に今年読んだ国内作品の1位なのである。どうかこのスタイリッ
シュでクールな世界を堪能していただきたい。見たことのない壮大なビジョンを体験していただきたい。
このニ冊は国内SFの光り輝く一つの到達点であり、小説という媒体の無限の可能性を感じさせる逸品な
のである。


■2位■ 「八日目の蝉」角田光代中央公論新社

 子を持つ親として、これほど心がかき乱された本はなかった。本書以前に「森に眠る魚」も読んでいる
のだがやはり出来としては本書のほうが数段上。ジャンルで分けると本書は一応クライム物になるのだろ
うが、ただの犯罪物では割り切れない深い思いを残す。本書と向き合った数日は思い返すだけでも胸が詰
まってくる慟哭の数日だった。まさしく傑作である。


■3位■ 「天使」、「雲雀」佐藤亜紀/文春文庫

 皆川信者のぼくとしては、本書との出会いは衝撃的だった。読者を顧みない説明を極力排除した硬質な
文体に酔いしれた。こういう書き方もあるんだと目を見開かされた。正直、このニ冊を読んでる間は脳み
そが煙を吹くんじゃないかと思われるほどフル回転だったのだが、またそれがとても心地よいのだ。普段
使わない感覚が開いていくような不思議な高揚感にとらわれるのである。


■4位■ 「新世界より(上下)」貴志祐介講談社

 これだけの分量が、まさしくあっという間に過ぎた。細かい部分では色々不満な点もあるのだが、エン
ターテイメントとしての完成度は抜群で、やはり読みだすとやめられないおもしろさなのである。また、
本書を読んであの懐かしい貴志ホラーの戦慄を味わえたことで、彼の手になるホラー作品への渇望が増し
た。次は原点に立ち戻って、どうか生粋のホラー作品を書いてもらいたいものである。


■5位■ 「奪われた死の物語」皆川博子講談社文庫

 本書を読んで、そのミステリーとしての巧緻な仕掛けに舌を巻いた。短編と手記の二段構えの構成で読
ませる物語としての巧みさも然り、展開の意表をついた演出や紀行物としての風情も素晴らしい。かつて
このブログの仲間うちで「聖女の島」が絶賛されていたが、どちらも読んだ身としては、ミステリの出来
として本書のほうが上だと言い切ってしまう。皆川さん、あなたはやはり素晴らしい。
 

■6位■ 「DINER」平山夢明ポプラ社

 彼の長編はとても貴重なのである。いままでの作家生活の中でわずか三冊しか書かれてないのだからそ
れは言わずとしれたことだろう。その彼の久しぶりの長編は、期待にたがわず大満足の一冊となったわけ
なのだがまさか殺し屋とダイナーが一緒に描かれるような作品を読むことになるとは思いもしなかった。
ここらへんが平山テイストなのであって、他の誰もが真似のできない凄いところなのである。


■7位■ 「ビッチマグネット」舞城王太郎/新潮社

 いままでの奇抜な設定と過剰な暴力を極力排し、いたってノーマルな世界で最大限に彼の魅力を演出し
た良作。家族の結束と真っ当な人間として生きることの大切さを説く健全なメッセージ性が心地よい。物
語が世界を救うという、最古の金言を実践しようとする姿勢も好ましい。いやあ、やっぱり舞城君は素敵
だなぁ。


■8位■ 「ことば汁」小池昌代中央公論新社

 短編集なのだが、ここに収められている6編から立ち上る独特の雰囲気は本書を読んでみないことには
百万言ついやしても伝わらないだろう。詩人として確立されたことばへの妄執ともいうべきマニアックな
こだわりが生んだ奇跡的な作品集だといえる。幻想味が微妙に加味されているのもよろしい。


■9位■ 「小川洋子の偏愛短篇箱」小川洋子河出書房新社
 
 こういうアンソロジーはとても貴重なのである。なぜなら、アンソロジーには編んだ人の個人的な思い
が入っているから、そこに必ず一定の世界観が開けるからである。そしてそういう世界観に読み手がシン
クロしたとき、思わぬ効果が得られて驚くことがある。本書に収録されている16編は、いまでは読むこ
ともない作家が多数含まれている。これもうれしいことだ。まことに貴重な一冊だといえるだろう。


■10位■ 「1/2の騎士~ harujion~」初野晴講談社ノベルズ 
 
 この作品を読んだときは興奮した。ミステリとしてのおもしろさもさることながら、絶妙の会話文とセ
ンスある構成力に狂喜した。えらい作家が出てきたなぁとうれしくなってしまったのだ。ファンタジー
要素をうまく取り入れてあるのも新鮮だ。なんて言いながら、この人の本は以降まったく読めてないんだ
けどね^^。



【 海外編 】

■1位■ 「夜想曲集カズオ・イシグロ早川書房

 国内編で長くなったので、海外編は駆け足でいきましょうか。本書はイシグロ初の短編集。本書を読ん
で驚いたのは、彼の堂に入ったコメディアンぶりだった。尚且つ、ただおもしろいだけでなく含蓄ある短
編世界に深く感動した。


■2位■ 「悪霊の島(上下)」スティーヴン・キング文藝春秋

 あのキングがホラーの王道に帰ってきた!もうそれだけでぼく的には大事件なのである。それだけで2
位にしちゃうくらいの事件なのである。本書を読むことができて本当に良かった。 


■3位■ 「犬の力(上下)」ドン・ウィンズロウ/角川文庫

 各ミステリランキングでも上位に食い込んでいた本書は、読むだけで体力を消耗するような凄い本であ
る。本書を読む人は心してとりかかっていただきたい。読書でこれほど消耗したのはエルロイ「ブラック
・ダリア」以来だった。


■4位■ 「マラーノの武勲」マルコス・アギニス/作品社

 ただ自由でありたいがために、己の信念を貫いた男の壮絶な生涯。信仰の意味を問われるひとりの男の
生きざまが読む者の心をとらえて離さない。どうか宗教に関心のない方も手にとっていただきたい。だっ
て、ぼくだってそうだったのだから。


■5位■ 「ババ・ホ・テップ」ジョー・R・ランズデール/早川文庫

 ランズデールの短編は常に驚きを与えてくれる。もちろん万人に受ける作風ではないのは百も承知だ。
だが、ミステリ好き、ホラー好き、そしてSF好きのみなさん方はちょっとページをめくってみていただ
きたい。そこから広がる世界は虫酸が走るほど素敵なのだから。


■6位■ 「グリンプス」ルイス・シャイナー/創元SF文庫

 一応SFの体裁で描かれているが、本書の真髄は親と子の物語である。だがうれしくなってしまうのは
そこに叶うことなかった素晴らしい夢が描かれていることなのである。なぜならジム・モリスンやブライ
アン・ウィルスンやジミ・ヘンドリックスが生きて登場するのだ。こんなことってある?往年の音楽ファ
ンには涙なくしては読めないのが本書なのである。


■7位■ 「灯台守の話」ジャネット・ウィンターソン/白水社

 舞城君と同じスタンスを持つ、非常に魅力的な物語。物語を物語るという行為は、世界の創造にも似た
崇高で確信犯的なたくらみに満ちている。そこには、愛の物語もあるし、裏切りの物語もあり、喜びの物
語もあれば、失意の物語もある。そして、ただ一ついえることは、物語には決しておしまいがないという
ことなのだ。


■8位■ 「タフの方舟1 禍つ星」ジョージ・R・R・マーティン/早川文庫

 これもめっぽうおもしろい連作短編集だった。タフという特異な男が主人公の純然たるスペースオペラ
なのだが、タイトルにもなっている『方舟』が素晴らしい。ひとまず世界に飲み込まれれば、あとは猛ス
ピードのジェットコースターに乗っているような興奮を味わえることは間違いないのである。


■9位■ 「シャムロック・ティーキアラン・カーソン東京創元社
 
 この作品のおもしろいところは、話がどんどん別の方向に逸れていってしまうところだ。聖人の逸話、
コナン・ドイル、ホームズ、オスカー・ワイルドウィトゲンシュタインメーテルリンク、ブラウン神
父等の数々のキーワードが散りばめられ、それが折かさなり波及し、相乗的に重層的に語られ物語が物語
を生み出していくのである。ある意味読者を選ぶ本かもしれないが、本好きならば間違いなく本書を気に
入るはずである。


■10位■ 「イエメンで鮭釣りを」ポール・トーディ/白水社 
 
 単純な発想を膨らませる話におもしろくない話はない。イエメンで鮭を釣るという一大プロジェクトは
いったいどんな結果を招いたのか?本書はこの顛末を『すでに起こった事』として描いている。そうする
ことによってミステリ的な興趣が生まれ、読者はグイグイと引っ張られて読んでいくことになる。一読忘れがたいのは、そういった本書の形態が新人離れした筆勢で描かれているからなのである。


というわけで、【 国内 】、【 海外 】それぞれのベストテンを紹介いたしました。今回も独断と偏見で

選出しましたが、総じていい読書が出来たなと喜んでおります。今年の記事はあと一つ「古本購入記」を

書いて締めくくりたいと思います。では、みなさんいましばらくお付き合いのほどを^^。