久しぶりの皆川作品。手軽に読める薄さが、いっそ憎らしい。そんな思いをしながら、やはり堪能しきっ
て満足の吐息と共に本をおく自分がとてもいじらしい。
たゆたう大河のように壮大で、しかし表面に見えない部分では常になんらかの作用がおきて、変化に富ん
だ表情を見せている。移り気な猫のように奔放で、鋭く刺す蜂のように危険で、歪んだ世界を見下ろすよ
うな不安感を与えてくれる作品群。しかし、そこには壮美で官能的な大伽藍が鎮座して、やさしい手でう
なだれた我々をやさしく手招いてくれるのである。ああ、なんて蠱惑的なんだろう。そして、どうしてこ
んなに耽溺してしまうのだろう。
本書に収録されているのは以下の7作品。
「薔薇忌」
「禱鬼」
「紅地獄」
「桔梗合戦」
「化粧坂」
「化鳥」
「翡翠忌」
そのすべてにおいて、演劇や芝居の世界が舞台となっている。どれがどうと言及するのも、おこがましい
気にさせる完成度はさすがだ。しかし、その中でもつい先日読んだ「ドッペルゲンガー奇譚集―死を招く
影」に収録されていた「桔梗合戦」はやはり素晴らしい。この短篇に皆川作品のエッセンスがギュッと凝
縮されているといっても過言ではないだろう。他の作品も鮮烈で強欲なまでにいびつなところが悩まし
い。
それでも、これだけの作品が並んでいてそれを続けて読んだ時に、ひとつひとつの作品の印象がぼやけて
しまうのは、どうしたことか。もしかしたら、あまりにも毒が強すぎて、皆川熱にやられてしまっている
のだろうか?とにかく、何度もいうが、ぼくは一生あなたの徒弟です。
なんでもお言いつけ下さいませ^^。