読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョージ・R・R・マーティン「サンドキングス」

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 ぼくにとって、ジョージ・R・R・マーティンといえば、まず「皮剥ぎ人」なのである。ナイトヴィジョンの「スニーカー」に収録されていたこの傑作中編は、おそらくぼくの中で美化されて今読めばもしかしたらあの初めて読んだ時の感動はないのかもしれないが、もうほとんど神格化されているのである。

 で、本書「サンドキングス」なのだ。一読して、これがあの「皮剥ぎ人」と同じ人が書いた本なのか?と驚いた。まあ、独立独歩の幻想世界なのだ。確かにイメージは確立されていてオリジナリティにあふれているが、そこに魅力を感じることはない。幻想といえばあの哀切極まりない南部ヴァンパイアを描いた「フィーヴァー・ドリーム」もマーティンの手になる傑作ではなかったか。しかし、本書はその幻想が指の間からすべりおちてしまうのだ。


 収録作は以下のとおり。

 「龍と十字架の道」

 「ビターブルーム」

 「蛆の館にて」

 「ファスト・フレンド」

 「ストーン・シティ」

 「スターレディ」

 「サンドキングス」


 どれもこれも、なかなかの難物なのだが、表題作の「サンドキングス」のみ、単純で至極わかりやすくて、この中では一番おもしろかったとおもう。ほんと単純明快な筋運びが安心できるね。

 その他の作品は、設定からストーリー展開から登場するワードまで、すべてにおいて難物でありいってみれば小説というよりもしかして哲学書を読んでいるのではないかと錯覚してしまうくらい普通じゃない。一時、本書が入手困難になっていたのもわからんでもない。こんなの誰が読むんだってえの。

 こうしてマーティンのSFに対して、手酷いしっぺ返しを受けたぼくは、彼のSF作品、ひいては彼の書くもの全般において拒否反応をしめすようになってしまう。しかし、そんな呪縛もなぜか急に読もうと思い立った「タフの方舟」ですっかり解き放たれることになる。未読の方は是非読んでいただきたい。「タフの方舟」は傑作だ。これほどおもしろいSFは、そうそうない。なんかとっつきにくそうと思ってる方がおられるなら、ほんとダマされたと思って読んでいただきたい。

 ここには物語のおもしろさがこれもかってくらいに詰まっている。また共著になるが「ハンターズ・ラン」もかなりおもしろいSFだった。これは逃亡劇に奇妙なバディ物を絡ませたSFだ。