読書の愉楽

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ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 2 天の果実」

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 『タフの方舟』第二弾なのである。今回も短編が四話収録されているのだが、それぞれすこぶるおもしろかった。もうこのシリーズは間違いないのである。

 というわけで、方舟なのだ。まあ、このアイディアはほんと素晴らしいね。この方舟と環境エンジニアリングという取り合わせだけでこれだけの物語が作りだせるんだから、素晴らしい。もちろん主人公である特異なキャラクターのタフ自身の魅力も十二分に作用しているのだが、やはり要は『方舟』なのだ。この『方舟』に収容されている数知れない多種多様な動植物その他のサンプルが無限の可能性を秘めているのである。

 本書では、このシリーズが一応の完結をみるということで、前巻に収録されていた「パンと魚」で登場した異常に人口が増え続けている惑星ス=ウスラムの環境問題のその後を描く「タフ再臨」と「天の果実」が収録されており、特にラストの「天の果実」はいままでのエンターテイメント路線から更にシビアな問題に突っ込んだ展開で深刻尚且つ真摯に環境問題への解決作が示されていてとても興味深かった。その他の「魔獣売ります」は、もうタイトルから察せられるとおり、多様なモンスターが登場するびっくり箱のような話で、次々繰り出される魔獣の描写だけでも鼻息が荒くなるおもしろさだった。「わが名はモーセ」では旧約聖書の『出エジプト記』で描かれたエジプトにくだった十の災いと同じ現象を起こし、惑星一つを掌握したモーセと名乗る男とタフとの一騎打ちを描く痛快作。『方舟』をつかって本当の十の災いを再現してしまうタフの手際に舌を巻いてしまった。

 本当のことをいうと、このシリーズはもっともっと読み続けたいのだ。たった二巻で終わりだなんてもったいなさすぎる。願わくば、さらなるシリーズの続刊を待ち望みつつ、筆をおくことにしよう。