読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョージ・R・R・マーティン「洋梨形の男」

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 何回も書いてるが、マーティンの短篇集「サンドキングス」はイマイチだったのだ。マーティンが得意とする奇想スレスレのとんでもない発想が少し的外れであまりピンとこなかった。これはひとえに、ぼくの読解力のなさがまねいた結果なのかも知れず、いま読めばまた違った感触なのかもしれないが。

 ま、とにかくそういうわけで、彼の短編集ときくと少し身構えてしまうのである。しかし、今回出たこの奇想コレクションの一冊は、彼のホラー作品の短編集だというので読んでみた。これも何回も書いたが、彼の「皮剥ぎ人」という中編が忘れがたい傑作ホラーだったから、期待も増したというわけなのである。

 本書には六編の作品が収録されている。

 「モンキー療法」

 「思い出のメモリー

 「子供たちの肖像」

 「終業時間」

 「洋梨形の男」

 「成立しないヴァリエーション」

 おもしろくないわけではないのだが、やはりちょっと微妙かな。二編を除いてそれぞれ設定やアイディアでみせるような作品ではなく、じっくり読ませる作品となっている。決してそれが悪いわけではないのだが、エンターテイメント性がかなり制約されているのも事実なのだ。他方、除かれた二編というのが巻頭の「モンキー療法」と真ん中に位置する「終業時間」。前者は、タイトルがそのままストレートに反映されている気味の悪い作品。でも、盛り上がりに欠けていてあまり好きじゃない。後者は駄洒落がそのまま作品になってしまったもので、これはこれで面白いのだが、とりたてて言及するほどのものでもない。

 で、残りの四編なのだが、それぞれかなり読ませる作品であることは間違いないのだが、これだ!と抜きん出たものもないのである。特に「思い出のメモリー」と「子供たちの肖像」は陰鬱な作品で、前者はサイコ物としても怪談としてもなかなか怖い作品に仕上がっている。表題作もサイコ物の一種になるのかな?そこに主人公自身のニューロティックな不安要素も加わって、独自の世界を構築している。これを読むとチーズ味のコーンスナックが嫌になるかも知れません^^。ラストの「成立しない~」は本書で唯一のSF作品。でも、SF要素は時間旅行に限定されていて、しかもそれは物語自体のギミックとしてはさほど重要でもないのだ。どちらかといえば、この作品はチェス小説として機能している。ぼく自身チェスをまったく知らないので、その場面は軽く読み飛ばしてしまったが、この手の作品が好きな人にはたまらないのだろう。

 というわけで、今回の短編集もさほど心に残らなかった。ついこの間の「タフの方舟」の興奮も冷めやらぬ今、同じ作家についてこれほど冷めた感想を書いている自分にも驚いてしまうが、これもまた事実、仕方がないことなのだ。