青銅の壺だ。かなり重そうだ。でも、よく見るとこれは動かせないんだなとわかった。なぜなら、ボルトで床に固定してあるからだ。いったい、何に使うんだろう?普通は花を活けたりオブジェとして飾ったりするのであって、すべり台の上にボルトで固定したりはしない。
我が子の手を引きながら公園にきたのはいいが、これじゃ、この子が好きなすべり台で遊べないじゃないか。しかし、これはいかんともしがたい。ぼくにはどうにも出来ない。仕方なく自分の無力さを噛みしめ尚且つ父親としての威厳が消失してないだろうかと気にしながら、息子に言ってきかせることにした。
だが、見下ろしたそこに我が子はいなかった。
ぼくが手を引いていたのは、三十五年前に死んだおじいちゃんだった。
思わずノドの奥から『ヒッ!』と声を上げてしまう。
生前のおじいちゃんのことはよく知らないが、まさかこんなに小さかったわけではないだろう。だって、身長が1mにも満たないなんていくらなんでも不気味すぎる。
そのおじいちゃんがぼくを見上げて
「中野山の船は、幾らで売れた?」と、地の底から響くような声で言った。
「な、な、中野山?いや、知らないよ。なんの話?」
そう答えると、おじいちゃんは大きく目を見開いて
「お前は、大事なことを忘れとる。ええ、ええ、もうええ。そのうちわかるときがくる」そう言って消えてしまった。
なんなんだ?ぼくは激しく恐怖し、少しチビってしまった。
それに、我が子はどこへいった?
グルグル見回して捜すが、どこにもいない。そのとき、すべり台の上にあの壺がないことに気がついた。
ええーー。何処へいった?ボルトで固定してあったのに。
わからないことばかりで、気が狂いそうだ。
頭を抱えて、目をつぶると星が瞬いた。やがて、その瞬きが勢いを増し真っ白になった。
ぼくは、頭を抱えたまま目を覚ました。