けだし、人間の想像力の飛翔をみた気がする。ここに収められているのは短編。作者が何年かにわたってそこかしこに発表してきた作品が一冊にまとめられている。ラインナップは以下のとおり。
病室にて
第一章 診断
「いかにして夢を見るか」
「夜明け、彼は妄想より来る」
「召されし街」
「いつか僕は」
第二章 症状
「インキュバス言語」
「ドギィダディ」
「バロック あるいはシアワセの国」
第三章 諸例
「中華風の屍体 チャイニーズ・デッド」
「踊るバビロン」
「演歌の黙示録 エンカ・アポカリプス」
第四章 療法
「或る芸人の記録」
「憑依奇譚」
「逃げゆく物語の話」
付記・ロマンス法について
正直、第二章くらいまでなにがおもろいのこれ?と思っていたのである。もう、ここらでやめて次の本を読もうかなと思っていたのである。しかし、惰性で読んで「バロック あるいはシアワセの国」まできて、およよ!となった。
これはバロックという奇妙なドラッグに関するさまざまな記述を羅列して語られる物語である。おそろしいくらいの多幸感に包まれるというバロック。都市伝説かと思われていたものが実は壮大な歴史を持つある王国にまつわるものだったという話(かなり端折ってますよ)。それぞれの記述には出典があって、サブカル的なものから学術論文的なものまでさまざまな角度からバロックというドラッグ(ほんとうはドラッグじゃなくて・・・)について焦点を合わせていく作りになっている。
これが滅法おもしろくてびっくりしちゃいました。絵空事が現実を凌駕するっていう感じ?まるで出鱈目なのに確立されている安心感というか躍動感というか、すべてが合わさって楽しめました。
次に目を向いたのが「踊るバビロン」。これは屋敷島というある会社が開発した『生体建材』が暴走してできた大きな建築物の世界の話。家具人間のポー先生に見いだされ、闘具として覚醒するべく物語を生み出してゆくグエンの物語。これは、急に上下二段組みになって、下部には訳注までついてくるという内容の濃さにまず驚いたが、構築された世界のおもしろさにたちまち魅了された。ポー先生の話す言葉がおもしろいのでちょっと抜粋。
「あんまり、何だ。あんまりの続きは云いたくないのか。云いたくないことを云おうとしているのか。云いたくないことは云わない方が良い。なぜならとても云いたくないからだ」
こんな調子で家具人間ポーはグエンを率いて屋敷島を巡ってゆく。
かと思えば演歌とオカルトを融合させるというとんでもない力技を見せる「演歌の黙示録」(これもそうだし、前述の二作もその世界観の構築具合が絶妙でかなりくすぐってくれる)や、宇宙一となった今は落ちぶれてしまった芸人コンビの究極の危機一髪を描く「或る芸人の記録」や、物語を具現化したラングドールなるものが検閲の目を逃れ約束の地を目指す「逃げゆく物語の話」など、読み応え抜群の短編が続く。
強烈な妄想を描く本書、最後の最後でなんともいえぬ帰結となる全体の占め的な「付記・ロマンス法について」で締めくくられてこりや、ほんと、やってくれましたなの一冊なのでありました。
