わずかニ、三百年前には、こんなに巷に死体があふれていたのかと驚くばかりでした。
江戸の人たちはぼくたちよりずっと死体と身近に暮らしていたというわけなんです。
ましてや、その死体や罪人で刀のためし斬りするというのだからまったく考えられません。
しかし、本書を読んでいるとそういった非現実感が、見事に胸におさまってくるから不思議ではないです
か。非現実でなく、合理的に思えてくるんです。
現代では、たとえ罪を犯した者でも人間としての尊厳は守られています。しかし江戸では、罪人は人間で
はないんです。死体となると物扱い。ここらへん、現代人には抵抗ある考え方なんですが、わからないで
もない。時代が要求した風俗というわけです。
あの山田浅右衛門も、俗称の「首斬り浅右衛門」が本当の姿だと誤解していました。
まさに眼からウロコ。史実をひもとくというのは、まことにおもしろい作業ですね。
生臭い話のように思いますが、読んでみるとけっしてそんなことはない。
まるで、別世界のような昔の日本に心が遊び、非現実ながらもリアルな感触を伝える好読物になっていま
す。死体といっても、けっしてグロな話ではないんで、手に取ってみてください。