家の前に立ってると、車が一台やってくるのが見える。
それが尋常でない。
ワンボックスタイプの車なのだが、車の屋根の上にも座席が据付てあって、一台の車に20人くらい乗っ
ているのだ。ちょうど、インドの路面電車のような状態だ。
さらに驚くのが、その20人全員がヤ○ザの方々なのである。見るからに強面で、車全体からいまにも噛
み付きそうな、凶暴なオーラが発散されている。
これは、ヤバイ。
ぼくは、車が近づく前に隠れようと身を翻したのだが、どうも間に合わなかったらしい。
見事に捕まってしまった。
屋根の上の座席まで、ひきずり上げられてコロンの匂いのプンプンするヤ○ザさんたちに囲まれた。
「おい!おまえ、勝山 重蔵の居場所しっとるか?」
「いえ、そんなに食べられません」
恐怖に頭の中がパニクッていたぼくは、自分でもおかしいなと思いながら、わけのわからないことをしゃ
べってしまった。
「はあ?なに言うとんねん、こいつ。いてもうたろか」
血走った目でニラミつけて、ツバキを飛ばしながら喚く角刈りが素敵なヤ○ザさん。
「いえ、あの、すいません。ぼくはブラジャーなんていりませんから」
口が勝手にしゃべってしまう。口を開けば、意思と関係なく言葉が出てきてしまうのである。
「おまえ、ほんまにいてまうど!知ってんのか、知らんのかどっちやぁぁぁぁ!」
こめかみの青筋がまるでミミズみたいだと思いながら、ぼくは必死に取り繕おうとした。
「生垣にしいたけが生えて、困ってますねん」
角刈りが素敵なヤ○ザさんは、何もいわずぼくの襟首をつかんで、素晴らしい膂力でもって軽々と持ち上
げ、ぼくを車から放り出した。
大きく弧を描いたぼくの身体は、なぜか大量の水を飛び散らせながら川に飛び込んだ。
ブクブクブクブク。
果てしなく沈んでいくかと思われたが、やがて浮上。
水面に顔を出し、大きく息を吸い込んだところで目が覚めた。