読書の愉楽

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ガイ・バート「ソフィー」

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 この作者のことは一応知っていた。それというのも、いまから十年ほど前にけっこう鳴り物入りで紹介された「体験のあと」という本を読むか読むまいかですごく迷ったことがあったからだ。結局、そのときは見送ったわけなのだが、いまになってその作家の第二作が創元文庫から復刊されたというわけ。

 

 で、それを読んでみたわけなのだが、これがなかなか余韻のあるいい小説だった。

 

 話は非常に混みいっている。誤解を招くかもしれないが、ここが本書のポイント。主な登場人物はタイトルにもなっている姉のソフィーと弟のマシューの二人。この二人が世界の中心であり、物語の核心となっている。開巻早々、マシューはソフィーを殴りつけた後、拘束して昔の事を語り始める。どうしてそういうシチュエーションなのかは、最後まで読むとわかるのだが、とにかく読者はそういう形で物語に放り込まれる。マシューが語る過去の出来事は、幼い姉弟の静謐であり秘密に満ちた郷愁の日々。信頼し合う姉と弟。だが姉は早熟で天才。幼くして世の中のすべてを把握するほどの知力を持っている。そんな姉はまだ何も知らない弟をあらゆる悪から守るために取り巻く世界を掌握し、支配する。

 

 もう誰もこない廃坑、林の中の倒木、ヒイラギの木の隠れ家、捨て去られた農場の大きな納屋。秘密の暗号で書かれた何冊もの日記、夢に出てくる不気味な男、突然死んでしまう赤ん坊。振り返る過去の日々に隠された数々のキーワード。それが導き示唆する答えはいったい何なのか?

 

 最初、ぼくは本書が非常に混みいっている話だと書いた。ここまで読んでこられた方は、いったいどこが混みいっているのだと思われたことだろう。これはどこまで踏み込んで書いていいのか判断に困るのだがとにかく気になった方は本書を読んでみていただきたい。そうすると、ぼくの言いたいことが理解できるはずである。そして、そこが本書の肝心な部分であり、余韻をあたえてくれる重要な要素だとわかってもらえるはずなのである。非常に短く、すぐに読めてしまう本なのだが、これはなかなか素晴らしい小説だと思う。郷愁と不穏な余韻。相反する要素が無理なく絡んで絶妙なハーモニーを奏でている。創元さん、いい本復刊してくれました。来春刊行されるという、第三作がとても楽しみになってきた。