ヘレン・マクロイは、読んでみればかなりおもしろいミステリを書く人だなといつも感心するのだけれど、イマイチ日本での紹介が系統だってないのでよくわからない部分があった。本書にしても、既に紹介されている「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」そして「ひとりで歩く女」より時系列的には前の話なのだ。マクロイはベイジル・ウィリング博士を探偵役にしたミステリでデビューしており、第1作の「死の舞踏」は論創社から刊行されているが、続く2、3、4作は未訳で5作目が「家蠅とカナリア」そしてその次に出たのが本書だということなのだ。
だから、既訳のマクロイ作品をまったく読んでない方が本書で初めてマクロイ・ミステリーに接したとしてもまったく問題はない。本書のオビに書かれている惹句もホントいうと見ないで欲しいくらいだ。
で本書の内容なのだが、舞台は第二次大戦中のカリブの島。そこでアメリカの通信社の支局長ハロランが事故死する。彼は死ぬ間際まで大スクープを追っていたみたいなのだが、数少ない手掛かりしか残っていなかった。そこに流れ者のフィリップ・スタークがハロランのかわりに着任するが、彼はハロランの死に疑問をもっていた。ハロランの死は事故死ではないのではないか。そして手掛かりとして残されていた小鬼の市(ゴブリン・マーケット)とは何なのか。
やはりマクロイは上手い。比較的短めの章割りで、うまく興をつないで先へ先へとページを繰らせるテクニックはなかなかのものだ。事件の真相も時局をうまく反映させたもので、いったいどこへつながっていくのかとハラハラした。またそこへ辿りつくための論理的な帰結もまったくスキがなく、理路整然と解明されていく終盤はほんと読んでいて気持ちがよかった。いま同時進行で百田尚樹の「永遠の0」も読んでいるのだが、描かれている時代が同じなので奇妙なシンクロを感じた。
マクロイやっぱり堅実だね。安心して読める数少ない女流ミステリ作家だ。これからもどんどん読んでいこう。