まさかね、この本が普通に書店で売られる日がくるとはね。ほんと日下三蔵氏の仕事は賞讃に値します
だから、ぼくは彼と同時代に生まれたことを喜ばずにはいられないのである。
で、生前はまさしく封印されていて、風太郎自身がある企画で自身の作品をABCの三段階評価したところ
、本書だけはPだったっといういわくつきの一冊なのであります。
ま、一応忍法を扱っているけど、本書を忍法帖シリーズの一冊だというのは間違い。だから本書を忍法
帖の延長線でとらえると、かなりややこしいことになる。これは、現代風俗小説であって当時の世相を反
映しながら風太郎独自のシニカルな視線とユーモアをまじえて描かれる狂騒劇なのだ。
主人公は先祖伝来の忍法相伝書を受け継いだしがないサラリーマンの伊賀大馬。好きな女の子が身売り
みたのが運の尽き、その中の一つを試してみたら成功したから大変!彼の冒険の日々が始まってしまった
のであった・・・。
とまあ、昭和風の紹介を書くとこんな感じなのだが、ここに出てくる忍法がそれぞれまるで馬鹿馬鹿し
いものばかりで、風太郎先生これを書いていたときノッて書いていたのか、それとも呻吟しながら書いた
のかおおいに興味わくところだ。後半に登場する忍法など、もう下半身絡みのものばかりなのがなんとも
笑える。しかし、驚くのがこの作者自身最低の評価をくだした作品にもかかわらず、物語がかなりスマー
トに収拾しているところなのだ。馬鹿馬鹿しい忍法を有機的に絡め、伏線をすべて回収し、きちんと終わ
らせているから感心してしまう。
でもまあ、これは一般向きの本ではありません。風太郎作品に親しみ、彼を敬愛し、彼の本ならどんな
ものでも読んでおきたいと思うファンだけが楽しめる本なのであります。
ほんと日下さん、ありがとうございました。これからも風太郎の未発表原稿や未収録作品の発掘がんば
ってください。