読書の愉楽

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野村 美月 「“文学少女”と恋する挿話集 2」

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 この本の前に『もうひとつの“文学少女”の物語』といわれる「“文学少女”見習いの、初戀。」があったのだが、すっ飛ばしてこっちを先に読んでしまいました。だって、この挿話集の主人公がななせだと聞いたものだから、いてもたってもいられらくなってしまったのだ。

 相変わらず、ななせは不器用に生きている。心と反対の態度は、本来の美点に翳りを加え、思惑はすべて逆の結果を招いてしまう。こんなに不器用で、ピュアな女の子はそうそうおりません。だから、おじさんは、この子を全面的に応援していまうのだ。世慣れて、嘘も欺瞞も駆け引きもすべて掌中のものとするような、悪魔のような女の子でないからこそ全身全霊で一喜一憂してしまうのだ。・・・・と思っていた。

 でも、本書を読んでいて、ふと感じたのである。心の片隅で、人生に苛められているような、ななせの姿を見ながら喜んでいる自分がいるんじゃないかと。これは、もしかしたら加虐趣味が高じた密かなプレイを楽しむ姿勢なんじゃないかと気づいてしまったのだ。

 うわあ、危ない危ない。決してそんなことはございません。ぼくにそのようなサディスティックな性癖は・・・・・・ないこともないが、いやいや、ななせちゃんに対する気持ちにそのような邪まな気持ちはこれっぽっちもありません。

 などと、ああでもないこうでもないと葛藤しながら本書を読み終えた。まったく作者も人が悪い。あんたは「おしん」のファンじゃないのか?こんなに素敵な子に、こんな辛い思いをさせて。

 ま、これだけ色々考えながら読んでるということは、それだけこのシリーズの中身に没頭できてるというわけで、やはりこのシリーズは楽しいのだ。

 と、ここまで書いて本書の内容にまったく触れてないことに気づいた。挿話集というからには、本編に付随するサブ・ストーリー的な役割なのだが、ここで描かれるのは本編の大ラスのウネりにウネったあのシリアスな展開の裏で進行していた、もう一つの物語たちなのである。だが、本編が結構厳しくて重い雰囲気だったのに対して、本書で描かれるストーリーにはサブキャラの反町君と森さんという、なんとも憎めない明るいカップルが進行役をつとめてくれるので、これが緩衝になって全体的にコメディ色の強い仕上りとなっている。いつものごとく扱われる本たちにも薀蓄があって楽しい。今回はハイネやバイロンや中也やタゴールなんていう詩人たちが活躍してくれました。

 こんなにおじさんになっても、このシリーズはやはり楽しい。これからもずっと読み続けていこう。