読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

高橋良平編 「伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ」

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 ここに収録されている作品は60~70年代のものばかり。かなり古いよね。でも、これが読んでみるとまったく古さを感じさせず、むしろ刺激さえ受けちゃうような作品ばかり。収録作は以下のとおり。


 「ボロゴーヴはミムジイ」ルイス・バジェット

 「子どもの部屋」 レイモンド・F・ジョーンズ
 
 「虚影の街」 フレデリック・ポール

 「ハッピー・エンド」 ヘンリー・カットナー

 「若くならない男」 フリッツ・ライバー

 「旅人の憩い」 デイヴィッド・I・マッスン

 「思考の谺」 ジョン・ブラナー

 
 表題作からして、なんのこっちゃ?って感じのタイトルなのだが、これがはっきりすっきり理解できて、尚且つそんなところへ行きつくのかと、その鮮やかな氷解に感心してしまう逸品。これと似て、また異なものなのが次の「子どもの部屋」。どちらも同じテーマを扱っていて、ラストの後味の悪さも同じなのだが、この「子どもの部屋」のほうが、親としてなんとも複雑な心境になってしまう。「虚影の街」は、アイディアオンリーの作品のようでいて、最後に驚きの事実が発覚する。まさかこんなことになっていようとは。「ハッピー・エンド」は物語の結末から始まる。時系列を逆に辿ることによって真相が明らかになってゆく。おもしろいね。短い作品だけど印象深い。
「若くならない男」は、かなり壮大な話。時間の逆流を描いているのだが、こんな短いページの中で悠久の歴史が逆流するなんて!「旅人の憩い」は以前、時間SF傑作選「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」に収録されているのを読んでいたので再読。しかし、これは傑作だ。この発想は素晴らしい。いろいろ齟齬はあるのだろうが、そんなのはこの際どうでもいい。南に下るにしたがって、時間の流れがはやくなるなんてどうやったら思いつく?しかも主人公の名前まで変っていくなんて!戦争の真相についても驚愕の事実が発覚するし、まあ読んでみて、びっくりするから。「思考の谺」は、往年の「ミステリー・ゾーン」に出てくるような侵略物。本書の中では一番長い作品だが、オーソドックスな展開で安心して読めちゃう。技巧もなにもないが、SF本来のホラ話的要素が満開で、御都合主義もなんのその見事に大団円を迎えるのでありました。

 いやあ、何度でも書くが、ほんとSFのアンソロジーっておもしろい。ぼくなんてコアなSFファンでもないから、こういう傑作選みたいなのが一番てっとり早くSF短編の良作に触れることができる機会なんだよね。このアンソロジーは副題が伊藤典夫翻訳SF傑作選となっていて、これが好評なら第二弾、第三弾も出るらしい。第二弾なんて、もう目次はできているってんだから、是非とも陽の目をみてほしいものだ。だからみなさん、本書買ってどんどん読みましょうね。