読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ヘンリー・カットナー「ロボットに尻尾がない」

ロボットには尻尾がない 〈ギャロウェイ・ギャラガー〉シリーズ短篇集 (竹書房文庫 か 18-1)

 河出書房新社が海外文学の紹介に力入れてるなと思っていたら、今度は、竹書房文庫から海外SFがなんやかんやと刊行されるようになった。とても喜ばしいことだよね。しかも、現代の作品のみならず、こうやって過去の埋もれた作品にまでスポット当てるんだから侮れない。

 というわけで、このカットナーさん結構重要な作家みたいで、後続の作家たちに多大な影響を与えた人でもあるということで、あのレイ・ブラッドベリリチャード・マシスン、それにロジャー・ゼラズニイなんかも名を連ねているから、すごいんじゃない?さらに驚くことに、この人デビューがウィアード・テイルズ誌にクトゥルフ物を書いたのが最初だそうで、あのラヴクラフトとも友人関係だったそうな。すごいじゃん、カットナー。この人、いろんなペンネームを使ってさまざまな作品を発表してたらしく以前アンソロジーで読んだ「ボロゴーヴはミムジィ」も名義がルイス・バジェットだったから気づかなかったけど、正体はカットナーだったみたい。あの作品も素晴らしかったなあ。

 というわけで、本書なのであります。これ、連作の短編集で、主人公は呑んだくれて泥酔すると天才科学者になるギャラガー。だから、彼は色んな依頼を受けて、前金もらってそれを解決するヘンテコな機械を作るのだが、素面に戻った時に一切合切すべて忘れてしまっているというのが、毎回のパターン。だから、てんやわんやしながら、いったいどういう依頼があって、どういう解決作を導きだしたのか?というのが焦点になる。

 でもそれが一筋縄ではいかないから、おもしろい。それに途中からナルシストのロボットなんかが加わって、これがまた話をややこしくするからえらい騒ぎなのである。だから、本シリーズは、多分にユーモア強めのSFなのであります。と、簡単に締めくくってもいいのだけれど、もう一言。

 このカットナーさん、色んな作家に影響与えただけあって、なかなか巧みに話を作ってくれるんですよ。一見全く意味の見いだせない発明品が、ラストに至ってすべてストンと見事に着地するのである。そのもっとも鮮やかなのが四編目の「Gプラス」。三つ巴の込み入った依頼がたった一つの機械で丸く解決してしまうのだから、痛快きわまりない。その手際からも、ぼくの中ではこの人はジャック・リッチー並みに頭の切れる人なんじゃないかと思っております。