エリスンは、かなりお年を召した方なのである。だって1934年生まれだから、もう80越えちゃってるんだよ。だから本書に収録されている10編のほとんどが60年代か70年代に書かれた作品でかなり昔のものなのに、まったく古さを感じさせないところが素晴らしい。しかし、これが一筋縄ではいかないものばかり。収録作は以下のとおり。
・おれには口がない、それでもおれは叫ぶ
・プリティ・マギー・マネーアイズ
・プリティ・マギー・マネーアイズ
・世界の縁にたつ都市をさまよう者
・死の鳥
・鞭打たれた犬たちのうめき
・北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中
・ジェフティは五つ
・ソフト・モンキー
SF好きならご存知のとおり、これらのほとんどがいままでに何回かアンソロジーで収録されていて、バラバラには読んだことがあるという人もたくさんおられるだろう。しかし、これがどういう事かエリスン独自の傑作選として一冊にまとめられたことがなかった。
要するに、本書はすごく貴重な一冊なのである。本書に収録されている作品のほとんどがそれぞれヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、エドガー賞を受賞している。だが、かといってこれがけっして万人受けする作品ばかりでないところが一筋縄ではいかないところなのだ。
先の短編集「世界の中心で愛を叫んだけもの」ではバイオレンスが強調されていたように思うが
「少年と犬」のようなリリカルな作品もあり比較的とっつきやすい印象だったが、表題作は本当に抽象的な世界を描いており、表現も実験的だしあまりにも現実とかけはなれた概念を描いていたので、これにはおいてけぼりをくったような気がしていた。しかし、エリスンがいうところの彼のSFはスペキュレーティヴ・フィクション(思索的小説)という意味が一番しっくりくるのがこの表題作で、物語重視のぼくとしてはこれは好きじゃないが、力技で最後まで読まされたという感じだった。
「少年と犬」のようなリリカルな作品もあり比較的とっつきやすい印象だったが、表題作は本当に抽象的な世界を描いており、表現も実験的だしあまりにも現実とかけはなれた概念を描いていたので、これにはおいてけぼりをくったような気がしていた。しかし、エリスンがいうところの彼のSFはスペキュレーティヴ・フィクション(思索的小説)という意味が一番しっくりくるのがこの表題作で、物語重視のぼくとしてはこれは好きじゃないが、力技で最後まで読まされたという感じだった。
で、今回の傑作選なのだが、ここに収録されている作品もスペキュレーティヴ・フィクション満開で物事はすんなり運ぶことはなく、ほとんどの作品においてそれは側面から描かれ、本質へ辿りつくまでに数々の暗闇を通り抜け、迷路を考えながら進むような読書を強いられる。それを受けつけないという人もいるだろう。基本、ぼくもそうなのだがエリスンの作品に限っては、これをカッコいいなあと思ってしまうのである。本書の中で、その白眉は表題作「死の鳥」だ。
25万年の眠りののちよみがえった男ネイサン・スタック。彼を導く『影』。そして病み衰えた地球。イヴにリンゴをすすめた蛇。途中に挿入される神に関する問題。エリスンの体験を描く『アーブーの物語』。ね?これを読んでもなんのこっちゃ?でしょ。でも、これがかなり刺激的で、忘れがたい印象を残すのだ。ぼくが、どれだけこの短編を咀嚼できているかわからないが、ぼくはこれを読んでエリスンカッコいいー!!と思ったのである。その他の作品ではやはりエドガー賞を受賞している2作は、ミステリ作品として成立しているので、とてもキャッチーだ。その他の作品では「竜討つものにまぼろしを」がとてもわかりやすくて衝撃的。「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」もかなりの難易度だと思うが、やっぱり、カッコいい。
この冬には国書刊行会から若島先生の編んだ「愛なんてセックスの書き間違い」が刊行されるそうで、これもすごく待ち遠しい。
ハーラン・エリスン。彼は生粋のSF作家じゃないのかもしれないがぼくは大好きであります。