読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中村融編 R・F・ヤング、フリッツ・ライバー他「時を生きる種族」

イメージ 1

 おそまきながら読んでみたが、これは前回のロマンティック時間SF傑作選の「時の娘」と比べると全体の印象としては見劣りする。しかしここに収録されている作品群も非常に貴重な作品ばかり。
 だけど、今回は『ファンタスティック時間SF傑作選』と副題にもあるように、ぼくが好きなロマンティック時間SFではないのだ。収録作は以下のとおり。

 ロバート・F・ヤング「真鍮の都」
 
 マイケル・ムアコック「時を生きる種族」
 
 L・スプレイグ・ディ・キャンプ「恐竜狩り」
 
 ロバート・シルヴァーバーグ「マグワンプ4」
 
 フリッツ・ライバー「地獄堕ちの朝」
 
 ミルドレッド・クリンガーマン「緑のベルベットの外套を買った日」
 
 T・L・シャーレッド「努力」


 まず、巻頭のヤングでうんざりしてしまう。歴史的重要人物のコピーを作るために、実際にその人物を誘拐するという任務を遂行しようとする主人公。まず、この設定が歯がゆくていけない。あまりにも杜撰でついていけない。ましてオチがまさかそうじゃないだろうなと思っている通りになってしまうからなおさらいけない。これは駄作です。ムアコックは、まさしくファンタジックの名に恥じないSFなのだが、これは時間SFとしてはあまり見栄えがしない。「恐竜狩り」も、設定でタイムマシンを使っているだけで実質、タイトルそのままの話に終始している。シルヴァーバーグ「マグワンプ4」は、昔懐かしいあまりにもオーソドックスなSFで、その単純明快なストーリー運びに、もうこういう作品はいらないなと心底痛感した。ライバーは、以前からあまり好みの作家ではなかったが、やはりこれも合わなかった。アルコール依存症のみる夢には興味がでない。

 と、ここまでの作品は、まったく心に響かなかったわけなのである。やはり時間SFにはロマンティックな要素か、技巧的なものがなければいけないよなあ、と思っていたら次のクリンガーマン女史の作品でノックアウト。これは、ロマンティックの王道をゆく作品で、いきなりな設定なんだけども、ぼくは好きだね。ヤングの甘さの最良の部分と同等だ。ここで大いに溜飲が下がった次第。そしてラストの「努力」にまたまた驚くことになる。

 これはねえ、ここでストーリーに言及しないでおこうと思う。とにかく未読の人は読んでみて。表面で描かれる事実と、水面下で進行しているもう一つの真実。それが当然のごとくラストに向けて集約され、すさまじい世界へとなだれ込んでゆく。一発屋の作家らしいが、すごい作品だ。

 というわけで、本書はラスト二編のみを読むだけでも買いなのである。ま、個人の好みだから、もちろん他の作品もおもしろいって思う人は多々いるはず。ぼくはダメだったけどね。