読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

高橋克彦「総門谷」

イメージ 1

 この本って最近読まれてないの?こんなに凄い本てそうそうないよ?何してるの、みんな読まなきゃ。これって日本が誇る傑作伝奇小説なのだ。あの半村良の「石の血脈」に匹敵する面白さなのだ。ってか、最近じゃ「石の血脈」も読まれてないか?伝奇小説自体もう認知されてないレベルなのか?いやあ、それってかなり勿体ないことだよ。本書を読んでない人、絶対ソンしてるよ。

 

 ぼくが本書を読んだのは、もう二十年以上前。この分厚い文庫本を一気に読んで、読了した時ホーッとため息が出た。ほんと構想十五年というたいそうな謳い文句にも納得してしまう。これは並大抵のお話ではないよ、まったくもう。とここで本書の触りの部分を紹介するのが筋なのだろうがそれはやめておく。なぜならば本書の内容紹介を読めば一気に読む気が失せるかもしれないからだ。手っとり早いところでAmazonの内容紹介を読んでみればいい。ぼくが本書のことをまったく知らずにこの紹介を読めば絶対本書を読もうなんて気は起こらなかっただろう。なにこれ?新しい戦隊ヒーロー物の紹介?
 ぼくが敬愛するスティーヴン・キングの長編も作品紹介だけみると、なんか小学生向けのアニメのシノプシスそのものなのだが、あらすじだけ抜き出すとその通りなのだから仕方がない。キングはそこにディティールを重ねて饒舌に世界を構築することによって単純明解な一本道を複雑で入り組んだ迷路に仕立てあげる。この「総門谷」もそう。あらすじだけ抜き出すと、王道のヒーロー物のようなバカげたストーリーなのだが、高橋氏はそこに通説の常識を根底からくつがえすようなさまざまな謎の解明を組み込み、壮大かつ華麗に奏であげる。まさにここで語られるのは『地球おかかえ謎』ともいうべきもので、次々とくり出される古代文明や聖書にまつわる新たな説に興奮はとどまることを知らない。そして、物語中盤から登場する死の世界から蘇った十二死徒の驚くべき面々を知って、さらに興奮はMAXへと導かれる。

 

 ああ、この興奮をこれから味わえる人がうらやましい。

 

 本書には続編がある。なんか色々出ててよくわからない。ていうか、高橋氏の伝奇物はシリーズ物が多くそれぞれ続いている。個人的にすべて第一作は傑作だと思うのだがそれに続く作品は面白くない。

 

 本書「総門谷」もそうだし「竜の柩」もそうだし「刻謎宮」もそうだった。それは各人が自分の目で確かめて欲しい。

 

 とにかく本書は傑作だ。これを読み逃す手はないと思うのです。未読の方はぜひお読みください。