「神は沈黙せず」は、ほんと久方ぶりに熱狂した小説だった。まずその情報量の多さに圧倒され、尚且つそれを物語の渦中に巧みにとけこませ、人類最大の謎ともいえる神の存在に肉薄する周到な構成は、他の追随をゆるさない確かな技量を見せつけて秀逸だった。超常現象といういわゆるキワモノをこれだけエキサイティングに語った本をぼくは他に知らない。まさしくオカルト伝奇の傑作だ。
本書は、その山本弘が「神は沈黙せず」に続いて出した短編集であり、のちに続く「アイの物語」へと昇華されるSF作家としての『輝き』を十二分に堪能できるSFホラー集なのである。
収録作は以下のとおり。
◇「闇に落ちる前に、もう一度」
◇「屋上にいるもの」
◇「時間割の地獄」
◇「夜の顔」
◇「審判の日」
それぞれ非常にキャッチーな内容で、すんなり物語に入っていける。なぜならば、ほとんどの作品においてそのテイストが、かつて一世を風靡した「トワイライトゾーン」と同様のものだからである。
「トワイライトゾーン」は日常にまぎれこんだ奇妙な世界であがく主人公を描いて、観る者に不安感を植えつける。本書に収められている5編中「時間割の地獄」を除く4編がまったくその「トワイライトゾーン」にどんぴしゃの内容なのだ。なかでも印象深いのはラストの「審判の日」である。
主人公である女子高生の亜矢子は、ほんの一握りの人以外すべての生物が消えうせてしまった世界に取り残されてしまう。文字通り人だけでなく、動植物や細菌でさえ生きているものはすべて消えうせてしまった世界。しかし、人間に関しては消えてない人もいる。どうして自分は消えずにいられたのか?他の残った人々との共通点は?どういう選択で消えた人と残った人に分かれてしまったのか?
ミッシングリンク物としてのおもしろさも兼備えたこの作品は、その回答において数多ある同工異曲の作品群と照らし合わせてみても群を抜く出来栄えで、SF的解釈に逃げなかったところにおもしろみがあった。
他の作品についてもバカバカしさを通り越した凄みがあって、飽きさせない。巻頭の表題作は非常に短い作品ながらハッブル定数問題やエントロピーの法則を盛り込んで、とんでもない幻想を見せてくれる。こういう足元をすくわれる感覚は大好きである。同様に「夜の顔」もいまある現実がまやかしなのではないかという不安感を煽って秀逸だった。こういう発想はやはりSF独特のものであって、理数系でないぼくの頭では到底思いつかないものだ。「屋上にいるもの」は、本書の中で一番ホラー寄りの作品。真相は不気味で美しい。
唯一「トワイライトゾーン」的でなかった「時間割の地獄」は、バーチャルアイドルが主人公の一番SFらしい作品。AIに心はあるのか?という命題を突きつめていてなかなか読ませた。これをもっとふくらませたのが「アイの物語」なのだろう。
というわけで、やはりこの人の本はおもしろい。こうなれば「アイの物語」も読まねばなるまいて。
こういう本を読むと、ほんと、忘れかけていた無限の可能性を思い出させてくれる。これが醍醐味というものなのだ。