読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

シャーマン・アレクシー「はみだしインディアンのホントにホントの物語」

イメージ 1

 主人公であるアーノルド・スピリット・ジュニアは北米先住民(インディアン)のスポケーン族の保留地で育つ少年だ。生まれた時に水頭症で手術をするという生死の境を生き抜いたが、後遺症で言葉の発達が遅れたりして、よくいじめられる子になってしまう。
  
 そんな彼が、ある事をきっかけに保留地の高校から白人ばかりが通う高校に行く決心をする。そこは保留地から三十五キロ離れたところにあるリアダンという町にある高校。人種差別主義者の警官が意味もなくインディアンの運転する車を止めて嫌がらせをするような田舎の町だ。
 
 そこから彼の冒険の毎日がはじまる。保留地にいるインディアンたちは、わざわざ白人たちの中に飛び込んでゆくジュニアの気持ちが理解できない。リアダンの高校生たちは、見るからにみすぼらしいインディアンに偏見を持つ。家族と一部の人以外はみんな敵になったような環境の中でジュニアはどうやって自分の居場所を見つけてゆくのか。
 
 定番といえば定番の話なのだろうが、それでもやはりこういう話は読んでいて高揚するし、精神的にとてもよい作用をするのである。物語の中では、思わず声が出てしまうようなショッキングな出来事もあったりするのだが、ジュニア少年はそれらの逆境をなんとか乗り越えてゆく。ユーモアを忘れず、必要以上に強がっていきがってゆく姿が物悲しくもあり微笑ましい。語り口の軽妙さで悲惨な印象は受けないのだが、これが我が身におきていたならと考えると、かなり重たい人生だ。
 
 だが、インディアンの誇りと意地を胸に古い慣習を捨て、新しい人生を切り拓こうと努力する姿は素晴らしい。そして、それがちゃんと実ってゆくのが気持ちいいではないか。人種の違いという疎外感をつねに肌に感じながらも、それをものともせず突き進んでゆくジュニアの姿はとても頼もしい。
 
 というわけで、本書は多くの人に読んでもらいたい本なのである。ぜひ本書を読んで運命や人生に負けない生き方というものを味わって欲しい。ひ弱なジュニアはとても頼りになる奴なのだ。