読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

鈴木喜代春・著 山口晴温・絵「十三湖のばば」

イメージ 1

 最近、「ザ・インタビューズ」が流行っているのをみなさんご存知だろうか?ぼくはまだ登録してないのだが、ここに登録すると登録している人にいろんなインタビュー(質問)ができるのである。もちろん自分もインタビューを受けることもある。いろんなジャンルの人が登録していて結構おもしろそうなのだが、時間をとられそうなので、いまのところぼくは傍観の立場なのである。ツイッターをしていると、フォローしている人が何人かここに登録していて、いろんな質問に答えておられるのを楽しんでみているのだが、そこで杉江松恋氏が『トラウマになった本』を教えて欲しいという質問にこたえて挙げていたのが本書「十三湖のばば」なのだ。
 
 本書は児童書なのである。有名な本みたいだが、ぼくはまったく知らなかった。どうしてこれが『トラウマ本』になるのかというと、津軽地方の貧困な寒村に生きる一家の辛く悲しい人生が描かれているからなのだ。
 
 津軽半島日本海側にある十三湖岩木川山田川が流れ込むこの大きな湖のほとりにばばは住んでいる。八十をこえたこのばばのもとを著者が訪れ、彼女の昔語りを聞いていくというのが本書の構成。
 
 十三湖のほとりでばばは百姓の夫と共に小作人として田を作っている。ここの田は『腰切り田』といって、暗渠排水の整備されていなかった大正の時代は、腰まで浸かって田植え仕事をしなければいけない過酷なものだった。そこでばばは男女十一人の子をもうけた。しかし、その中で生き残ったのはたった三人だけだったのだ。
 
 序章と終章を除く七章すべてが、様々な事故や災害や戦争により命を落としてゆく子どもたちの話なのである。大正から昭和にかけて、今の時代からは想像もできない凄まじい人生を歩む一家のあまりにも辛い日々。ばばはその逆境に負けることなく力強く生きてゆく。しかしそこに強いメッセージはない。ばばは生き残ったから生きているだけだ。運命に弄ばれた人がただ生き残ったという事実があるだけだ。ぼくは七章のラスト一行に衝撃を受けた。そこに救いがなかったからだ。でも、本書を読み終わって暗い気分になることはなかった。なぜなら、辛い人生を生き抜いたばばの達観が伝わるようなほのかに明るい終章がまっているからだ。

 

 本書のことを教えて下さった、杉江松恋さん感謝いたします。ほんとうに読めてよかったです。