国書刊行会から出たこのBDコレクションはバンド・デシネというフランスの漫画を紹介するシリーズで
ある。今回このシリーズから三冊刊行された。とりあえず、そのうちの二冊を読んでみたので、ここに紹
介しようと思う。
まず一冊目はクリストフ・シャブテ「ひとりぼっち」である。

これはほとんど絵のみの作品で、それゆえに幅広く想像の羽を広げられる可能性に満ちている。小説でい
うところの『余白の余韻』のある作品で、明確なストーリーの中に登場人物の心の中のつぶやきや思考の
過程が常に浮遊しているような奥の深さを感じさせる。
の男が住みついている。漁船の船長はその男の父親の遺言通りに残された財産を管理し、食べ物などを届
も出たことがないのだ。彼の唯一の楽しみは『辞書遊び』。辞書を持ち上げ机の上に落とし、開いたペー
ジの上に目をつぶって指をさし、選んだ言葉の説明を読み、それを想像する。外の世界を知らない彼は時
々あまりにも見当はずれの想像をしたりする。それが独特のペーソスとなって描かれる。文字がない分す
ぐに読めてしまうが、いつまでも心に残る余韻を与えてくれる作品だ。
次はエマニュエル・ギベール「アランの戦争」。

ープの回想を描いている。アランはアメリカ人青年で、多感な青春の日々を戦争と共に過ごした。彼の語
る戦争時代の日々は、まさしく語るに値するあまりにも小説的な日々で、事柄は時代と共に流れて描写さ
れるのだが、各々のエピソードは断片として切り取られて語られており、そうすることによって重層的に
物語が積み重なってゆき、素晴らしい感動をあたえてくれるのである。感動といえば少しニュアンスが違
うかも知れないが、一人の男の人生としてこれだけ多くの経験をし、多くの人々と巡りあったアランには
畏敬にも似たものを感じる。もしくは憧れといってもいい。戦争という特殊な状況下にありながら、アラ
ンが従軍した日々はもう終戦まぢかであり、さほどの激烈な戦いも経験はしてない。もちろん、普通じゃ
ない残酷な場面にも遭遇してはいるが、概ね戦争から連想するような悲惨なところはないのである。そん
な彼の戦争の日々は異国での興味深いさまざまなエピソードにあふれており、不謹慎かもしれないが、ぼ
くはそこに素直に憧れをもったのだ。こちらもユーモアと数多くの冒険に彩られながら、底辺にはそこは
かとなくペーソスの風合が感じられる。まるで分厚い文芸作品を読んだかのような読後感だった。
というわけで、久しぶりに漫画で感動した。このシリーズではあと一冊パスカル・ラバテの「イビクス」
というのがあり、これも近々読むつもりである。
このシリーズは、多くの人に読んでもらいたい。「アランの戦争」はいまのところ一番のオススメだ。
興味をもたれた方は是非手にとっていただきたい。おもしろさは保証いたします。