読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

赤川次郎「一日だけの殺し屋」

 

一日だけの殺し屋 (1981年) (角川文庫)

一日だけの殺し屋 (1981年) (角川文庫)

 

 

 

 本を読みはじめた中学のころ、当然ブームだった赤川次郎にも手を出したわけで、一番最初に読んだ彼の短編集が本書だったと記憶している。いまから思えば、設定にかなり強引なところもあるんだけど、赤川次郎はやはりスマートで読みやすく、そしておもしろい。それがすべての作品の共通項かといえば、そんなことはないんだけど、でも、本書を含むデビュー当時の諸作品は、なかなか侮りがたいものが多いのであります。

 読み返していないので、一回こっきり読んだ当時の記憶を引っ張りだして書いているんだけど、それでもこの短編集はなかなかの良作揃いだったと思う。この当時、三毛猫ホームズや幽霊シリーズ、三姉妹探偵団や大貫警部のシリーズなんかがあって、それぞれ結構楽しく読んだ記憶もあるのだが、短編では本書、長編では「ひまつぶしの殺人」が一等おもしろかったと記憶しているのでございます。そりゃあ「マリオネットの罠」や「黒い森の記憶」なんて世評高い作品もあったけど、ぼくはこの二冊が赤川次郎の長・短それぞれのベストだといまでも思っている。

 で、本書なのだ。収録作は以下のとおり

  「闇の足音」

  「探偵物語

  「脱出順位」

  「共同執筆」
 
  「特別休日」

  「消えたフィルム」

  「一日だけの殺し屋」

 秀作揃いなんだよね。みんなそれぞれおもしろい。先にも書いたけど、まあこんなシチュエーションないよなと思うんだけど、でもその不条理さをねじ伏せて読者の気持ちをグイッと引っ張り込んでしまうおもしろさがある。表題作なんて、ただのサラリーマンが似てるってことで殺し屋に間違われるだから、まあそんなことはないよね。でも、そこからの話の転がし方が赤川次郎の真骨頂であって、このころの彼は神がかっていたとしか思えない。その他の作品にしても、いったいどうなる?という結末への吸引力がすごくて、どんどん読まされる。ホント、うまいよね。

 最近はめっきり読むこともなくなったが、まだご健在ですよね?ここらへんでまた赤川次郎作品を読んでみるのもいいかもしれない。この人の書く本はとても読みやすくて、少々軽い印象があるけど、古典文学もかなり読みこまれていて素地はしっかりしている人だから安心して読めるんだよね。