「はるこん」というSFファンが主催するコンベンションが2010年から続いていて、毎年、春に国内と海外からゲストを一人づつ招いてさまざまな企画を行っているのだが、その中の一つに往年のSFファンにはおなじみのハヤカワSFシリーズの銀背とそっくりの装丁を模した未訳短編を翻訳した短編集が「ハルコン・SF・シリーズ」として発行されている。今年で四回目なので都合四冊の本が発行されていてラインナップは以下のとおり。
「雪玉に地獄で勝算はあるか?」 チャールズ・ストロス
「見上げてごらん。」 ロバート・J・ソウヤー
「武道館にて。」 アレステア・レナルズ
「我は四肢の和を超えて」 ジョー・ホールドマン
今年までの本についてはあまり食指が動かなかったのだが今回はなぜか気になって購入してしまった。
ホールドマンといえば、あの傑作「終わりなき戦い」の人であって、ぼくの中ではハードSFとベトナム戦争の人という位置づけになっているのだが、そんな彼の短篇というのにも興味を惹かれたし、なによりこのタイトルがSFとして傑作の香りプンプンしているではないか。
本書には三作収録されていてタイトルは以下のとおり。
「血の結び付きは濃く」
「四つの掌編」
「我は四肢の和を超えて」
これに北原尚彦氏の解説とそれの英訳、「血の結び付きは濃く」の英語本文などがついておよそ120ページ。
「血の結び付きは濃く」は、クローン技術がまかり通っている世界を舞台にしたハードボイルドタッチの短篇。ハードボイルドSFばかりのアンソロジーには是非収録したい作品だが、展開はおよそハードボイルドからはかけ離れている。SFの発想ならではの展開ともいえる。
「四つの掌編」は不老不死が現実となった世界がどういう結末を迎えるかを世界的文学作品のタイトルを冠して描く四つのショート・ストーリー。すべて書き出しは『誰も死なずにすむ時代がやってきた。』で始まるのだが、それがすべて皮肉な結末をむかえる。不老不死は是か否か。なるほどホールドマン氏はこう考えているのね。
「我は四肢の和を超えて」は宇宙工場ステーションで働く博士が事故に巻きこまれ、身体の大半を丸焼きにされ失い、サイボーグ化手術によって復活してゆく様を本人の記録文書で描いてゆく。これはモノローグという設定が生かされていて不気味。それぞれの部位を最新のサイボーグ化技術によって再生してゆく前半と、あ、そういう風に展開していくのかと少々驚いてしまう後半のギャップが生々しい印象を与える。そういえばあの「終わりなき戦い」もそういう描写が多かったなと思い出す。
ホールドマンの短篇が一冊になったのは本書が初めてだそうで、これはもっと本腰入れて紹介して欲しいと思った。はるこん実行委員会はいい仕事しています。これに見習ってハヤカワさん、本格的な短篇集出さなくちゃいけません。お願いします。