読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

『クラチカート』

 毎月11日にクラチカートという魔物がやってきて、誰かが生贄にされてしまうという無慈悲な世界。

 ぼくは毎月いつ自分の番がくるのかと、びくびくしながら暮らしている。

 クラチカートとは『煉獄の蜘蛛』という物騒な異名がつけられているとんでもない化物で、身の丈は5メートルもありビニールのようなつやつやした黒い羽をもち、毛が一切生えていない身体には4本の腕と逆折れになった鳥と同じ構造の脚がついていて、獲物をロックオンすると、どんな堅牢な建物の中でもやってきて、その4本の豪腕でがっちり抑えこみ、くびり殺してからゆっくり味わうのである。

 またクラチカートの口吻はかなり鋭く突き出しており、これを殺したての獲物の身体に差しこみ、消化液を注入してゆっくり溶かしながら啜り上げるので、残された死体は骨と皮だけになってしまう。

 あんな死に方は嫌だ。絶対に嫌だ。尊厳もなにもあったものじゃない。

 それになにより恐ろしいのはクラチカートの赤い目だ。黒い虹彩の浮かんだ、無機質な赤い目。後方に突き出した頭部の形状も異形だが、あの赤い目に見据えられながら死ぬのは本当に恐ろしい。

 どうしてこんな世の中になってしまったのか。どこから奴はやってくるのか。

 地球の覇者として生を謳歌していた人類は、永年の栄光の地を奴に奪われようとしている。毎月11日という周期におそらく謎があるのだと思われるが、どれだけ優秀な学者が束になって研究してもクラチカートの弱点はおろか、生態さえもまったくわかっていないのが現状だ。

 魔女狩りの恐怖とはこういうものなのか?命が奪われるかもしれない世界とは、なんて恐ろしい世界なのだ。本当に恐怖で気が変になりそうだ。

 そして、やがて11日が巡ってくる。

 物事の必然として、次の獲物はぼくなのだ。なぜなら、この物語の中心人物はぼくなのだから。

 ぼくは逃げる。なにもかもを振り切って、がむしゃらに逃げる。しかし、どれだけ必死に逃げても死を免れないのはわかっている。それでも逃げずにはいられない。走って、走って、走って、もう息ができないくらい必死になって走っているのだが、振り返ればすぐそばに奴がいるのがわかっている。

 死を観念するか、死から逃げさるか。もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。ぼくは助かるかもしれない。99パーセント死を確信していても、まだ残りの1パーセントに必死に縋り付く。

 しかし、無慈悲に死はおとずれる。ぼくは捕まり、丸太のような腕で身体を締め付けられる。

 クラチカートの身体は異様に熱く、獣臭い。体毛がないにも関わらず、噎せるような激しい臭いがぼくの鼻を殴りつけてくる。やがて、ぼくの頭は固定され、残りの腕がのびてきて大きく広げられた4本の指が両側からぼくの首を締め付け、圧迫されて目玉は眼窩から飛び出し、ぼくの鼻と耳からは熱い血潮がドクドクと流れでて・・・・。