本屋をブラブラしていたら、普段あまり見向きもしない双葉文庫の棚の前に平積みになっていたのが本書だった。その節操のないオビの文句に目を惹きつけられてしまった。手にとって裏返してみたら、裏の文句はさらに扇情的。『怖い!イタい!後味最悪!・・・なのにグイグイ読まされてしまう!』『これぞ史上最凶の作品集!!』。
なんですと?多島斗志之がこんな本を書いていたの?復刊と書いてあるからには、古い本なのか?う~ん、これはまったくきれいさっぱりスルーしてたな。中を見てみると1994年に単行本、1999年に文庫本が刊行されているということ。
というわけで、迷わず購入。早速読んでみたというわけ。
でもね、これはちょっと期待ハズレだった。本書には7編の短編が収録されているのだが、各編主人公は中学生の男の子。すべての作品において人が死ぬ。そのほとんどが殺人。こう書いてくると、オビの文句も納得できる。内容的にショッキングなのは、明るく希望に満ちているはずの少年たちが究極の犯罪に手を染めてしまうという対比があまりにも重たいからだろう。しかし、ほとんどの作品において展開が安易なものだから、すごく安っぽい印象なのだ。一話目は友人の母親の不倫現場を目撃してしまった少年が主人公なのだが、次がどうなるかという先の展開がするする読めてしまう。だから、驚きも興趣もあったものではない。だが、中の二編「罰ゲーム」と「嘘だろ」だけは、別格だった。特に「嘘だろ」の展開には驚いた。まさかそうくるとは思わなかった。この作品だけはドンデン返しが見事に成立している。「罰ゲーム」も展開のおもしろさにグイグイと読まされた。この感覚は先に読んだ乙一の短編集「ZOO」に通じるものがあった。しかし、ラストが少し安易なのでちょっと評価は下がる。
というわけで、多島斗志之がこういう作品集を書いていたってことにまず驚いた。「症例A」、「白桜夢」と長編ニ作読んだ印象では、こういう作品とは対極に位置する作家だと思っていたのでそこに驚いた。
しかし、この本が復刊のリクエスト候補にあがるってのも不思議な感じだなぁ。