原田宗典の作品はユーモラスなのがあるかと思えば、非常に鋭く怖い作品もあるから侮れない。
本書には五編の短編が収録されている。それでいて総ページ数が190ページほどなのだから、各編とて
も短い。収録作は以下のとおり。
「空室なし」
「北へ帰る」
「あるべき場所」
「何事もない浜辺」
「飢えたナイフ」
最初の二編は、人生の辛さがにじみ出るとてもせつない作品。なんともやりきれない状況が描かれるのだ
が、こういう現実はどこにでも転がっているのだ。特に印象深かったのは「空室なし」に出てきた幼子を
連れた母親の所帯じみた疲れた人生だ。泣き叫ぶ乳飲み子と言うことを聞かない女の子、二人の幼子を連
れ、住む部屋を探す女。これは読んでて息苦しくなってしまった。
表題作でもある「あるべき部屋」はエピソードの積み重ねで成立している作品だ。横断歩道に散乱してい
たミョウガだと思われた物体が実は鶏の切断された脚だとわかるところから、どろりと濃くて痛みを伴う
記憶が蘇ってくる。これも忘れがたい話だ。
あとの二編はサスペンス色濃い作品だ。ミステリの範疇に入れていっこうに遜色ない作品。どちらも緊張
感漂う出来栄えで、特に「何事もない浜辺」のただならぬ緊迫感と「飢えたナイフ」の結果が見えてるに
も関わらずグイグイ引っぱられるリーダビリティは特筆ものだ。
この人の短編は、もっと読んでいきたいと思ってる。「ポール・ニザンを残して」みたいな凄い作品がま
だまだ眠ってるかもしれないではないか。