読書の愉楽

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かわいい闇

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 かわいい絵柄なので、子どもに読んで聞かせてあげたいくらいなのだが、とんでもない。このBD(バンドデシネ)はなかなかの衝撃を与えてくれる。

 

 ぼくはいままで6冊のBDを読んできた。「ひとりぼっち」「アランの戦争」「皺」「イビクス」「ピノキオ」「闇の国々」それぞれ、ほんと傑作だった。この中ではユーモアと残酷さと物語のプロット自体が素晴らしい「ピノキオ」が個人的一等賞なのだが、本書「かわいい闇」は物語の持つインパクトではそれを凌駕してるといえるだろう。

 

 ぼくは本書を読んで何も予備知識をあたえず、我が子たちにも読ませた。来年大学を卒業する長女も、いま大学生の長男もどちらもかなり衝撃を受けたようだ。小五の次女はまだ読んでないけどね。残酷で、衝撃的だけどまた読み返したくなるとも言っていた。そう、本書は何度も見てしまう。一回読んで、衝撃を受けた場面をまた読み返す。そしてなんとなく納得して惰性でそのままページを繰って、新たな発見に至ったりする。何度も何度も。

 

 ここには現実の醜悪さと純真無垢を象徴するかわいいファンタジーが同居している。しかし、ファンタジー世界がそれゆえ物語に色を添えて、醜悪さから逸脱しているのかといえば、そんなことはない。ファンタジー世界特有の無邪気さの中に垣間見える残酷。それぞれのキャラクターが秀逸に描かれていて、でもみんな自分勝手で気ままだから無垢の中にある本質が剥き出しになって目もあてられない。

 

 それにかぶさって、通奏低音として徐々に進行する腐敗。腐敗は臭気を想起させる。死体は腐って臭いを放つ。だが、この世界ではそれが描かれない。むしろ、その現実は完全に無視されている。しかし、どす黒く変色した足には無数の蠅がたかり、蛆がわく。醜悪。嫌悪。

 

 なんともいえない読後感だ。ここには数々の経験が描かれるが、そこに安息はない。犬死と裏切りと自己満足そして復讐。良きものは滅び、悪しきものも滅びてしまう。みんながいなくなり最後にオロールだけが残る。そうして世界は降り積もる。

 

 さあ、まだ本書を読んでいないみなさん、これがBDの現実ですよ。ぼくは数々のBDを読んでそのたびに刺激を受けてきました。未読の方はぜひ手にとってみていただきたい。きっと、なんらかの影響を受けるはずだからね。これを読まない手はないですよ。