・キッド」のほうが有名なのかもしれない。しかし、そちらはあまり食指が動かなかった。ぼくとしては
この第一回パピルス新人賞を受賞した本作のほうが気になった。
この物語の舞台は団地である。主人公は一生、団地の中で過ごすことを決意した少年。彼は小学校を卒業
をし、毎日クラスメートだった友達の安否を確かめるために団地内パトロールをかかさない。
この少年が、どうして団地から一歩も出れなくなってしまったのか?それは物語半ばで明かされるのだが
この部分はなかなか衝撃的だ。ぼくはオビの文句も読まず、なんの予備知識もなしで読み進めていたので
こんな話になるとは知らず、かなり驚いた。もしこれから読む方がおられるなら、裏オビの文句やAmazon
の本の紹介などは読まずに挑んで欲しいと思う。そのほうが楽しめるはずだ。
全体の印象としてはそれほど感情移入できるわけでもなく、どちらかといえばこの主人公に違和感をおぼ
えるくらいなのだが、それでもおもしろい。団地という狭い空間で生活を続ける少年といえば、引きこも
りっぽいマイナスの印象があるはずなのだが、本書から受ける印象は明るくてポジティブだ。いったいど
ういう展開になるんだ?という興味も相まってグイグイ読ませる。かつての同級生たちが一人また一人と
団地から去っていく悲哀と、それでもそこに固執する少年のどうにも曲げられない信念。おかしな話を考
えたものだ。これだけ話を広げて、いったいどうまとめるんだろう?と危惧したが、この作者なかなかの
手腕である。ちょっと変わった青春小説として記憶に残る作品だ。読んでよかった。