読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2007年 年間ベスト発表!

またまた年間ベストの時期になりました。今年一年もなんとか時間をやりくりして遅々とした読書スピー

ドながら、心に残る本に出会えました。では、さっそくいってみましょうか。


■1位■ 「ヒストリー・オブ・ラヴ」二コール・クラウス/新潮社

 「本が好き!」の献本第一弾が本書だったのだが、これはそれほど期待していなかっただけにかなり衝撃的だった。当初の感想で書いた『世界中すべての人が本書を好きだったらいいのに』という気持ちはいまでも変わらない。それほどの傑作である。


■2位■ 「最後のウィネベーゴ」コニー・ウィリス河出書房新社

 当初の感想で予告したように年間ベストの上位5位以内に入った^^。まさしく『小説の巧者』と呼ぶ
にふさわしい傑作集である。SFというジャンルの枠を超えて、なお新鮮でうれしくなってしまう作品ば
かりで、ほんとこれを読んでる間は幸せだった。


■3位■ 「空中スキップ」ジュディ・バドニッツ/マガジンハウス

 エイミー・ベンダー路線に準ずる最右翼の作家がこのバドニッツだ。その世界観は奇妙でグロテスクな
のだが、妙に清潔感が漂っていて一言では説明できない魅力にあふれている。おもしろい短編を読みたい
なら、本書を読むべし。ハズレなしの傑作揃いである。


■4位■ 「溺れる人魚たち」ジュリー・オリンジャー/ランダムハウス講談社

 本書で描かれるのはリアルな日常に潜む『痛さ』である。ここに登場する少女たちは厳しい現実にさら
され、それを健気に受け入れる。あまりにも『痛い』その事実がいつまでも胸に残る短編集である。


■5位■ 「災いの古書」ジョン・ダニング/早川文庫

 久しぶりのクリフ・ジェーンウェイシリーズは、サイン本を題材にエキサイティングな展開をみせる快
作で、シリーズを通してもなかなかの盛り上がりをみせるニューロティックなハードボイルドに仕上がっ
ていた。単純な事件が一筋縄でいかないところに妙味がある。興奮しました。


■6位■ 「聖母の贈り物」ウィリアム・トレヴァー国書刊行会

 初めて接したトレヴァーだったが、読んでびっくりたちまち虜になってしまった。トレヴァーは人間の邪まな部分や不実な部分を好んで描いてゆく。しかし、そこに嫌悪感はない。むしろ清々しい。すごい作家がいたものだ。


■7位■ 「わが悲しき娼婦たちの思い出」G・ガルシア=マルケス/新潮社

 川端康成の「眠れる美女」にインスパイアされて書かれた本書は、老いらくの恋を美しく描いて印象深い。90歳の老人が自分の誕生日の祝いに、うら若い処女を狂ったように愛そうと考えてしまうという話がどうして美しく高尚な話になるのか?やはりマルケス只者ではありませんでした。

■8位■ 「ゴーレム100」アルフレッド・ベスター国書刊行会

 傑作だといわれている「虎よ、虎よ!」がまったくもってくだらない話に思えたぼくにとって、本書は正真正銘の傑作だと思えるSFだった。本の造りも凝っていて、小説の表現形態についても深く考えさせられる本だった。ベスター侮りがたしと思わせるに十分な本であった。


■9位■ 「夜の来訪者」プリーストリー/岩波文庫
 
 戯曲という形態の読み物はあまり好みではないのだが、本書には完全にノックアウトされてしまった。本書はミステリとしてもなかなかの出来なのである。岩波文庫でこんな極上のエンターティメントを読めるなんて思わなかった。短い作品なので、すぐ読めちゃうところもいい。味気ない表紙に惑わされずに是非手にとってみて欲しい。本書は一読に値する本である。 


■10位■ 「クライム・マシン」ジャック・リッチー/晶文社 
 
 気の利いたミステリ短編を求める向きなら、本書がオススメ。この中におさめられている短編にハズレはない。スマートで気が利いてて、嫌味のない作風を大いに堪能できることだろう。どうして、いままで纏まった形で紹介されていなかったのか不思議に思ってしまうくらい完成度が高い。


というわけで、今年はまた翻訳作品のみのベストになってしまった。国内作品でも「赤朽葉家の伝説」や

「厭世フレーバー」なんて作品が印象に残ってたりするのだが、バランスを考えて翻訳物で統一した。

また、今年は短編集でいい作品が多かった。以前は短編集というと少し物足りない気がしていたものだが

最近は好みも変わってきたようだ。読み応えのある長編もいいが、切れ味のいい短編にも捨てがたいもの

がある。さてさて来年はいったいどんな本に出会えるだろうか。いい本に出会えますように、と願をかけ

て年間ベストを終了したいと思う。