読書の愉楽

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ジョン・スラデック「蒸気駆動の少年」

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 スラデックは、ぼくの中ではトム・リーミイと並んでアメリカSF界の二大奇人という位置づけになっているのだが、今回この短編集を読んでやはりこの見解は間違ってなかったと納得した。

 この人の作品は、単なるアイディア・ストーリーの範疇に収まらない独特の展開をみせる。しかし、それは物語の奥行きとかバックグラウンドの確立なんかをまったく無視した孤高のスタンスであり、ある種のとっつきにくさとしても反映されている。難解な作家といわれる所以だろう。

 本書には短めの作品が23編収録されているのだが、異色の奇才作家といわれるだけあって、どれも一筋縄でいかない作品ばかりだった。誰もがスパイだったり、語り手によって物語の真相がころころと移り変ってしまったり、車が車をレイプしたり、延々と終わることのないバス旅行があったりと節操がない。かと思えば本格ミステリが登場し、世にも残酷で陰惨なヘンゼルとグレーテルが出てきたり、薀蓄にとんだ不気味なホラーがあったりとなかなかバラエティー豊かで飽きさせない。

 奇才スラデックここに在り。かつてサンリオSF文庫で刊行されていた「スラデック言語遊戯短編集」を読もうと挑戦したにもかかわらず、その難解さゆえに敢えなく撃沈したぼくだったが、本書は編者である柳下毅一郎が誰でも馴染みやすいようにエンターテイメント作品中心のセレクションを心がけたというだけあって、とても読みやすかった。でも、巻末の解説を読んでみると「スラデック言語遊戯短編集」に収録されていた作品が5作品もセレクトされていたのには驚いた。

 とにかく、本書はスラデック入門書としては最適の書ではないかと思う。おもしろかった。