今回は、ぼくが偏愛する作家チャールズ・バクスターを紹介したいと思います。
日本では、15年くらい前に早川から何年かおきに短編集が三冊刊行されました。
「世界のハーモニー」
「安全ネットを突き抜けて」
「見知らぬ弟」
の三冊です。ぼくは、この三冊を逆にさかのぼって読んでいったのですが、とにかく1冊目に読んだ「見知らぬ弟」で完全にノックアウトされてしまいました。
これが、なんとも心地よい短編集。日常を描いているだけなんですが、そこで目にするドラマはまったく新鮮で驚きに満ちていて、普通の人々なのにどこかユーモラスで真摯な登場人物達は読み手の心をとらえて離しません。
人が死ぬとか、事件が起こるとか、奇妙な出来事があるというのではなく、ほんと今のアメリカをそのまま切り取っただけの話なのに、どうしてこれだけ惹きつけられるのか?
それは、作者の眼がつねにやさしさをもって世界を構築し、人間の真の心を描いているからなんだと思います。
たまたまネットで目についた本で、そのときすでにバクスターの短編集は、みな絶版でした。そこで、古本屋で探してあとの二冊も続けて読みました。
どの短編集も甲乙つけがたい魅力にあふれていました。日常を描きながらも、奇妙なズレや微妙な不安感みたいなものを感じさせる作品もあり、中にはマジックリアリズム的な作品もありました。
バクスターは、長編も書いています。何年か前に出た「初めの光が」と一昨年久しぶりに翻訳刊行された「愛の饗宴」という本です。これらの本は、また後日紹介したいと思いますが、どちらも素晴らしかった。この作家を、追い続けてきて良かったと本当に思いました。
とりあえず、今回は作家と作品名の紹介だけにとどめておきましょう。もし読まれる人がいたとしたら、できるだけ白紙の状態のほうが、楽しめると思いますので。