こういうアンソロジーゾクゾクする。収録作は以下の通り。
「#」 梨
「タタリ・エクスペリメント」 柴田勝家
「始まりと終わりのない生き物」 カリベユウキ
「幻 孔」 池澤春菜
「あなたも痛みを」 菅 浩江
「ロトカ = ヴォルテラの獣」 坂永雄一
「戦場番号七九六三」 小田雅久仁
「我ら羆の群れ」 飛鳥部勝則
「フォトボマー」 イーライ・K・P・ウィリアム
「幸せのはきだめ」 平山夢明
「現代の遭遇者」 小中千昭
「牛の首 .vue」 空木春宵
「初 恋」 牧野 修
「ヘルン先生の粉」 溝渕久美子
「漏斗花」 篠たまき
「愛に落ちる」 久永実木彦
「まなざし地獄のフォトグラム」 長谷川京
「『無』公表会議」 斜線堂有紀
「開 廟」 飛 浩隆
「システム・プロンプト」 新名 智
SFで怖いっていったら、そりゃあ「エイリアン」が嚆矢でしょ。宇宙船内という密室で繰り広げられる猫と鼠のゲーム。生々しい殺戮とエイリアンの生態。ギーガーの悪夢的なデザインの世界観と次々明かされる新事実。後半の息詰まる展開は忘れられない緊張に満ちている。
転じて小説ではどうかというと、竹本健治「腐蝕の惑星」が強く印象に残っている。ていうか、本書の表紙のイラストがまんまあの「腐蝕の惑星」のラストなんだけどね。
本書の表紙を見て、すぐさまそれを連想したぼくはあの恐怖を期待して本書を手に取ったのであります。しかし、恐怖とSFというお題に見合う作品は本書の中にはないのである。おもしろくても怖くはない。SFというお題はもちろんしっかりクリアしているが、ホラーや恐怖要素は皆無なのである。
これだけの作品が収録されているのに、ほとんどがまったく印象に残らないものばかりで驚いた。こういうアンソロジーって何作はそういう作品があるもんなんだけどね。そんな中でも飛浩隆「開廟」だけは一味違った。いつものごとくセンス・オブ・ワンダーの最良の部分を奇抜に視覚化し、そこへ意表をつくストーリー展開でもって盛り上げ、特異な登場人物を配して度肝を抜く。まことにおもしろいSFでありました。でも、怖くはなかったけどね。
というわけで、ちょっと肩すかしのアンソロジーでありました。
