読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ロバート・F・ヤング「時をとめた少女」

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 「ジョナサンと宇宙クジラ」を読んだのは、もう二十年以上も前のことだった。だからそのバラエティに富んださまざまな物語のおもしろさを忘れていて、巻頭の「九月は三十日あった」のアンドロイドの女教師と「リトル・ドック・ゴーン」の衝撃の結末しか印象に残ってなかった。だから、その後にいろんなアンソロジーでタイムトラベル絡みのボーイ・ミーツ・ガール物ばかり読んだおかげでヤングは甘々のロマンティックなSFばかり書いてるんだと思い込んでいた。でも違ったんだよね。

 

 本書に収録されているのは以下の7編。

 

 「わが愛はひとつ」

 

 「妖精の棲む樹」

 

 「時をとめた少女」

 

 「花崗岩の女神」

 

 「真鍮の都」

 

 「赤い小さな学校」

 

 「約束の惑星」

 

 
 本書の中で、ぼくが勝手にヤングの専売特許だと思い込んでいた甘~い作品は「わが愛はひとつ」のみ。表題作もボーイ・ミーツ・ガール物なのだが、こちらはロマンティックとはいえない仕上がりで、どちらかといえばユーモラスな作品。「わが愛はひとつ」はタイムトラベルの妙味と回想のノスタルジックな雰囲気と、先が読めるにも関わらずそれなりの満足感が得られる甘々の作品。あ、そうそう「真鍮の都」は以前にアンソロジーで読んだことがあるのだが、これは駄作であります。

 

 その他が今回読んであらためて認識したもう一つのヤングの顔。エコロジー、文明批判、哲学などなどの要素を含んだシリアス寄りの作品だ。そこにはロマンティックな要素もサプライズ的なオチも可愛い女の子も登場しない。

 

 印象に残ったのは「赤い小さな学校」だ。これはなかなか残酷なお話で、胸が痛くなってしまった。そういった意味では「妖精の棲む樹」も同傾向の作品で、ラストにいたってなんともせつない気分になってしまう。

 

 イメージの壮大さで印象に残るのは「花崗岩の女神」だ。だって女性の形をした山脈を登攀する男の物語なのだからね。こういった大柄な女性に対する偏愛ぶりや、ロリコン趣味的な感覚から、ヤングってほんと恋愛対象に関してはちょっと傾いた人だったんだなあと思ってしまうのである。これは「たんぽぽ娘」や「時が新しかったころ」を読めば腑に落ちますことでしょう。

 

 ま、とにかくヤングの未発掘短編はまだまだあるらしい。すべてが読みたいとまでは言わないが、読むに値するいい作品がまだまだ眠っているのはないかと思うのである。



 各出版社さん、よろしくお願いいたします。