読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

文藝春秋編「 松本清張の世界」 

松本清張の世界 (文春文庫 編 2-33)

 

 これ、たまたま他の本でタイトルが出てきたので検索したらAmazonで安く売っていたので即ゲット、届いた本見て驚きました。だって700ページ以上あるんだもの。うれしい驚きだ。清張が亡くなった時の追悼として出版された本の文庫版なのだが、分厚いだけあって充実の内容で、巻頭の各著名人の清張さんの思い出話は美談だけがチョイスされているわけではなくて、松本清張という人間の表も裏も描かれていておもしろい。それによってぼくはさらに松本清張という作家に興味を覚え、刺激を受け、愛着を感じることになる。

 対談も井上ひさし水上勉とか一ファンとしての惚れ具合をノロけちゃってるし、初期短編も既読もあったけど、このあいだ読んだ「笛壺」となんかいろいろ交錯する「断碑」とか「骨壺の風景」が思い出される「父系の指」とか、清張の生い立ちや心風景を自分のものにしたような気持ちになった。

 彼の膨大な仕事は驚異でしかないが、その大きな壁はおいそれと乗り越えることはできない。尚且つ、その興味の向く範囲の広範囲なこと。清張の好奇心は後代への示唆に富む指標でもあり、大いに見習うべき巨大な力である。
  
 死していまなお書店に行けば主な代表作はすぐに手にとれるこの状況は、松本清張という唯一無二の作家の偉大さを象徴しているではないか。そんな素晴らしい作家を『社会派ミステリなんでしょ』と読みもせず(「点と線」は読んでいたけど、あれはそんなに響かなかったんだよねー。その印象が強いから長編は未だに読んでいないけど)棚の前をスルーしていたのが、恥ずかしい。清張の短編群は本当に宝の山なのである。

 で、そんなにわか清張ファンのぼくにとって、彼の軌跡や仕事の流れ、立ち位置、人となりなどの作品以外の知りたいこと、知らねばならぬことか網羅されていた本書は本当に有意義な一冊。

 分厚い本でありがとう。第一線で頑張ってくれていてありがとう。小説家として死ぬまで努力してくれてありがとう、清張さん!