読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

丸谷才一「輝く日の宮」

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 古文が大嫌いで、高校の授業ではホント苦労しました。何?『ありをりはべりいまそかり』って?こんなぼくだから『源氏物語』などには見向きもしなくて、さまざまな現代語訳があるのも勿論しっていたけど読んでみようと思ったことは一度もなかった。それに王朝物ってのも好みじゃないし、そんな平安なんて異世界で描かれた物語がおもしろいはずないじゃないか!と思い込んでいたのであります。
 本書は、その源氏物語に失われた一巻『輝く日の宮』というのがあるのではないかというお話。いやいや、これすっごく簡単に片づけちゃったけど、もちろん丸谷才一の手になる小説なのでさまざまな仕掛けがなされていて、すこぶる知的興奮にとらわれる一冊となっているのであります。
 まずね、章ごとに色々文体が変わったりするわけですよ。巻頭は主人公が中学生のときに泉鏡花を意識して書いたという小説で幕をあけます。これがああた、すっごくカッコいいのね。もう、ここでギュッと心をつかまれてしまいます。そんでもって、この小説が予想を超える展開でグイグイひっぱっていって、終わったかと思うと次の章では、その主人公が国文学者になっていて父親の誕生パーティに出席していて、思わぬところから新事実が発覚する。ここらへんの呼吸はまさしく息を呑むって感じ?で、その次の章では作者が顔を出して、え?エッセイなの?って戸惑っているうちに松尾芭蕉が「奥の細道」を書くきっかけになった東北行きの謎を追う話になってくる。その次の章では時系列と小説内の出来事が並列に描かれ、また次の章では幽霊のシンポジウムが戯曲形式で描かれるって感じで、まさに目まぐるしく展開していくわけなのです。
 そこに主人公 杉安佐子をめぐる恋愛模様が挿入され、学術と風俗が混濁してどんどんどんどんページを繰らされるって感じなのです。
 これね、古文を扱っているからとか、学術的な専門分野に疎いからとか、丸谷才一の旧仮名遣いが好きじゃないからとかいう理由で敬遠している人がいたら、すっごくもったいないから是非読んでみてほしい。実際、源氏物語なんか絶対読まないと思っていたぼくが、本書を読み終えたいま、すごく気になってしまって仕方ないんだからね。ちょうどおあつらえ向きに角田光代さんの現代語訳が出版されたばかりだから、これ読もうかどうか迷い中なのだ。そんなエラそうなこと言って何を迷ってんの?と思った方、いやいや、読むのにやぶさかではないのだが、いかんせんお値段が高いから躊躇してるのでございます。しかもまだ上巻しか出てないしね。
 ま、とにかく丸谷才一という作家は素晴らしい作家なのであります。この人の小説読めるだけで日本人に生まれてよかったなと思うもの。そうそう、泉鏡花もここらでさらっと、スルっとおさらいすべきかな?「草迷宮」しか読んでないしなあ。