ず、主人公であるローザの心象を通して浮かび上がらせています。
本書は二部構成になっています。「ショール」という短編と「ローザ」という中編。
「ショール」で描かれるのは強制収容所での出来事。
「ローザ」ではその三十数年後のローザの日常が描かれています。
ローザはいったいどんな目にあったのか?彼女には当時マグダという赤ん坊がいたのですが、その子は収
容所で電気を通した鉄条網に投げつけられて殺されてしまったのでした。目の前で殺される我が子。無惨
な、あまりにも無惨な光景。
強制収容所での悲劇は命の重さに比し、語れば語るほど重く辛く我々の上にのしかかってきます。その光
景には目を背けずにはいられません。人間が人間を蹂躙し、蔑み、虫けら以下に扱うなんてことが、戦争
の名目で行われていたなんて、いまさらながらどうしようもない無力感にとらわれてしまいます。あまり
にも盲目的な行いに、深い悲しみをおぼえます。
ローザはニューヨークに逃れ、やがてフロリダに流れつきます。彼女の日常はホロコーストから逃れたに
も関わらず、長期的ストレスによる障害にとらわれています。彼女にとっては、ホロコーストは終わって
いないんです。毎日、死んだ娘に書く投函されることない手紙。脳髄に刻み込まれた、残酷な日々。フロ
リダの身体が溶けて流れ出しそうな暑さの中で、ローザの空虚な営みが繰り返されていきます。とても薄
い本なのに、なんて重たい内容なんでしょう。本書もホロコーストを描いた作品として、ぼくの心に忘れ
がたい印象を残してくれました。