読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中島らも「ガダラの豚」

イメージ 1

 この本、単行本で出た当時(1993年)に読んだのですが、上下二段組で約600ページという長大さにも関わらず、一日で読み終わってしまいました。ほんと、読み出したらやめられないおもしろさなんです。物語には、アフリカ呪術、超能力、インチキ新興宗教、手品といった、いたって胡散臭いガジェットが盛り込まれています。

 しかし、らも氏はこれら只のキワモノともいうべき二流的な題材を使って驚くべき世界を描き出しているんです。主人公は、いまや研究費捻出のためテレビに出演し、同僚たちに『タレント教授』と陰口をたたかれている民族学者の大生部多一郎。

 彼の書いた「呪術パワー・念で殺す」という本は超能力ブームにのってベストセラーになり、そのおかげもあって、テレビでもひっぱりだこ。今度は教授の専門であるアフリカ呪術の取材のため、スワヒリ語で「13」という意味をもつ不吉な村、クミナタトゥに行くことになります。

 しかし、教授には8年前にアフリカの地でわが娘を亡くすという痛ましい過去がありました。そのため彼自身アルコール依存症になり、妻の逸美は神経を病み新興宗教にのめり込んでいる始末。様々な事柄が絡み合い、物語はやがてアフリカ最大の呪術師バキリと教授の対決へと集約されていきます。

 本書にはいろんな旨みがつまっているのですが、中でも秀逸なのが主人公である大生部教授のすっとぼけたキャラクター。つかみどころがなく、時にユーモアにあふれ、教授特有のたよりなげな部分もあり、彼の行動からは目が離せません。

 それと、おもしろいのが教授をとりまくブレーンが暴く、様々なトリック。新興宗教で教祖が演じる『奇跡』、超能力の秘密、手品のタネ。いろんなトリックが痛快に暴かれていきます。ここらへん、あの仲間由紀恵主演ドラマの「トリック」とよく似ている。っていうか、あのドラマの元ネタは本書なのではないでしょうか。

 そして、最後にいっておきたいのがホラーとしての特色。本書は、全体的に明るくユーモアにあふれた印象なのに、それに安心していると掌を返したように、凄惨で暴力的な場面が出てきたりします。この間合いがテキメン。本書がホラーとしても秀逸な所以でしょう。

 とにかく、本書はいったん読み出せば、必ずやラストまで連れて行ってくれるジェット・コースターノベルだといいきっちゃいましょう。

 もし、お読みでなければ是非手に取ってみてください。

 至福の時間を提供してくれることでしょう。