読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

木地雅映子「氷の海のガレオン/オルタ」

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 確かに、人は疎外感と付き合いながら成長していくものである。誰であれ絶対一度くらいは『自分は他人(ひと)とは違う』と暗示にも似た思いにとらわれたことがあるはず。もちろんぼくも例外ではなかった。自分の価値観を他人のそれと重ねあわせて、歯がゆい優越感にひたったりした。
 
 本書には二編の物語が収録されている。「氷の海のガレオン」は小学六年生の斉木杉子が主人公。少し風変わりな家庭環境の中で育った彼女は、学校の中に自分の居場所を見つけられずにいた。彼女は自分の言葉を持っていた。だから彼女の話す言葉は同級生たちの目には奇異にうつった。みんなの輪に加わらず、いや加わることを望まず自分を天才だと信じることで自分を保ってきた杉子。常に強気に物事を収束しようとする彼女の心はしかし危うい均整を保ちながらの綱渡り状態だったのだ。
 
 もうひとつの物語「オルタ」は、作者の娘の話。小学一年生のオルタにちょっかいを出してくる男の子の話を軸に、善悪の観念や自分の気持ちに折り合いをつける術を無垢な子供にどう説明するかというデリケートで難しい問題について語られてゆく。やがてそれは学校の存在意義にまで発展し、とても思い切った方法で解決されてゆくのだが・・・・。
 
 どちらもとても斬新だった。硬質で切実でかすかに息苦しい。しかし、この中にぼくはいなかった。同じ疎外感をもったことがあるにも関わらず、ぼくの場合はこれほど切実でもなかった。もがくこともなかったし、悩むほどでもなかった。ゆえに共感はあまりなかったのだが、それでも本書は読んでよかったと思える本だった。