読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山田風太郎「柳生忍法帖(上下)」

 

柳生忍法帖 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

柳生忍法帖 上 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

 
柳生忍法帖 下 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

柳生忍法帖 下 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

 

 

 本書は、柳生十兵衛を主人公とするトリロジーの一作目。作者の言葉をかりれば、とんでもなく強いやつに、とんでもなく弱いやつを戦わせたらどうなるかというのをやってみたかったということで、でもやっぱりそれでは話が成立しないんで、監督役に柳生十兵衛を配したということなのである。

 そんな本書は、数ある忍法帖の中でも一番といってもいいくらい強烈なサスペンスに彩られているのであります。これは、忍法帖の長編をすべて読んできたぼくが言うのだから間違いありません。

 風太郎の友人でもある作家の高木淋光が本書を読んで中に登場するある場面に対し、「主人公がこれほどの窮地に立たされる場面をいまだかつて読んだことはなかった。そこで、いったんページを閉じて自分なりに回答を出してみたのだが、作者の用意した正解にはとうてい及ばなかった」と語っているぐらいなのだ。まあ、これだけでも、なかなかのサスペンスだってことはわかるでしょ?

 ここで本書のあらすじをざっと説明すると、史実にある会津騒動が発端となる。暴虐の限りを尽くす藩主加藤明成に異議を申したてる国家老堀主水。これに怒る明成は堀一族の女たちが匿われている尼寺東慶寺を襲い、主水らの目の前で彼女らを惨殺する。この難を生き残ったのが堀主水の娘ほか七人の美女たち。その後、一族の男はすべて捕らえられ処刑。生き残った彼女たちは復讐を誓うのだが、敵は武芸に秀でた『会津七本槍』。彼女たちがまともに戦える相手ではない。ちょっと端折っちゃうが、ここで登場するのがわれらが十兵衛。さて、彼女たちは無事目的を果たすことができるのか?

 いったい、どうやったらまったくの素人が武術の達人を負かすことができるのか?これがねえ、ああたほんと、目ン玉飛び出る面白さなのですよ。敵の会津七本槍もそりゃあすげー奴ばかりなんですよ。忍法こそ使わないけど、およそ常人ばなれした奴ばっかりで。それをああた、われらが十兵衛が手助けするとはいえ、素人の女性が立ち向かってゆくんだから・・・。十兵衛かっけー。もう大好き!きっと本書を読む誰もが彼のことを好きになるだろうね。