読書の愉楽

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C・J・ボックス「凍れる森」

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 アメリカならではの魅力に満ちたシリーズなのだ。苛酷な自然、荒ぶる気象、誰もが持っている銃そして猟区管理官ジョー・ピケット。このシリーズの魅力は、日本では成立しない基盤の上に成り立っている。


 しかし、そこで描かれるドラマは、そんな程遠い異国のわれわれの心にグイグイ食い込んでくる。
今回は、開巻早々ジョーが奇妙な事件に遭遇する。大量のエルクの殺戮。違法に猟をするハンターを捕えるが、少しの隙にその男は無惨な死体となってしまう。いったい誰が?雪に降り込められそうになりながらジョ―はなんとかその死体を回収して山を降りる。もちろん、殺害現場から死体を持ち出すなんてことは、絶対にしてはいけないことなのだが、暴風雪になってしまい現場検証にも向かえない状況ゆえ結局彼の判断は正しかったことになる。


 さて、ここからだ。物語はこの奇妙な事件を発端としてどんどん不穏な状況を迎えることになる。ジョ―の前に立ちはだかる数々の問題。中でもジョ―も読者も一番気になるのが、エイプリルの問題だ。エイプリルは前回の事件で被害者となった女の娘であり、ジョーと妻のメアリーベスは彼女を養女として家族に迎えることにしたのだが、養子縁組の手続きがなかなか進まず事件から三年たったいまも法律上エイプリルは彼らの娘ではないのだ。しかしエイプリルはジョ―の娘たちとも本当の姉妹のように仲良くなり、本当の家族と変わらず愛情深く育てられていた。しかし、そこにエイプリルをおいて消えていたはずの母親が戻ってくる。それも、反政府主義のサバイバル集団「独立市民」の一員として。


 この問題が物語を熱くする。無理やり母親に連れていかれるエイプリル。山に籠る「独立市民」。そこへ内側の悪魔ともいうべき人物が介入してきて、ジョーは、どんどん追いつめられてゆく。ま、これ以上ストーリーは紹介せずにおこう。興を削ぐからね。とにかくジョ―は窮地に追い込まれたエイプリルを救うために傷だらけになり、眠ることもできず疲労困憊で大雪の中を奔走する。


 このシリーズは、本当に読者の心を鼓舞する。騎士道精神を思い起こさせる高潔でまっすぐな男ジョー・ピケット。彼が逆境に立ち向かう姿に読者は躍起する。自分もそうありたいと思う気持ちと、物事が正当に決着するというカタルシス。しかし、そこには数多くの痛みもある。このどうしようもない葛藤も奥深い魅力だ。続けて第三弾も読んでいこう。