本書が静かな話題を呼んでいるらしいと知って、急いで読んでみた。あの北上次郎氏も絶賛してるみたい
なので、気になったのだ。本書は短編集であって、4編収録されている。収録作は以下のとおり。
「百瀬、こっちを向いて。」
「なみうちぎわ」
「キャベツ畑に彼の声」
「小梅が通る」
しかし、期待していた表題作はイマイチだった。これは影の薄い主人公の男子高校生が幼馴染でもあり憧
れの人でもある先輩に頼まれて、先輩の彼女の疑いを晴らすために百瀬という女生徒と恋人のフリをして
くれないかと頼まれる話なのだ。はっきりいって、これは酷い。タイトルは凄くソソられるのだが、中身
はどうにも納得できないものだった。このシチュエーションはないでしょ。奇想なんていわれてるみたい
だが、まずこの設定自体がかなりアホっぽい。読んでいて辛かった。構成も現在と過去をフラッシュバッ
クさせているのだが、効果半減であざとい演出が鼻についた。よってこの作品はまったく評価しない。
次の「なみうちぎわ」も、腹の立つ話なので却下である。これは5年間の昏睡状態から復帰した女性の物
語なのだが、そういう状態になった水難事故の真相が他人事ながら納得できない話なので、まったくもっ
て笑止千万なのだ。こんな話、不愉快きわまりない。
だが三作目「キャベツ畑に彼の声」で、少し持ち直す。これは高校の国語担当の教師が、実はミステリ作
家の北川誠二だという秘密を知ってしまった女子高生の物語。設定も無理なく、物語の展開も十分納得で
きるもので、最後に軽いツイストがあったりして結構楽しめた。これはいいんじゃない?
で、ラストの書き下ろし作品で、本書の中で一番ながい「小梅が通る」なのだが、これが本書の中では一
番よかった。これも設定自体かなり無理のある話であり、到底ありえない話である。だって主人公のうだ
つの上がらない影でこそこそしてるような女子高生が実は○○の○○だっていうんだから驚いてしまう。
だが、この設定をコメディ的展開で尚且つちょっとせつない味付けにしたところに、この作品の良さがあ
る。少々アニメ的な話ではあるが、ぼくはこれが一番気に入った。
というわけで、全体としての評価はとても微妙。評判だった本書を読めてよかったということにしておこ
うか。