戦時下のミッションスクールを舞台に描かれる女の園での不可解な事件。「ああ、おねえさま」という世界が描かれているがそこにエロティックな要素はなく、むしろ無味無臭の健全な印象を与える。
驚くのは、その緻密な入れ子構造だ。作中作だけではなく、まだその中に手記があったりして奇妙な幻惑効果をあげている。また時制を無理なく自然に前後させることによって、叙述トリックが最大限にいかされ、案外やさしいこのメイントリックに簡単にだまされてしまった。
一応本書はYAレーベルで刊行されているが、中身は立派に大人対象だ。というか、少年少女たちにはちょっと荷が重いんじゃないかな?でも、作中で登場人物も言ってるように、小学生で「カラマーゾフの兄弟」を読む人もいるのだから、大人が勝手に判断する『子どもには合わないんじゃないか』という無意味な危惧は必要ないのだろう。
相変わらず、皆川女史は作中に絵画や詩を無数に散りばめて、一種独特の雰囲気を醸し出している。それは凄惨な美であり、現実離れした快楽だ。独特の浮遊感と匂いたつような透明感が物語を包みこみ、ファンタジーめいた舞台装置として機能しているのである。
物語に耽溺する少女たちというのも非常に魅力的な要素だった。その大きな枠組みにより成立している本書は、危険と紙一重のスリルや空想の世界に心とらわれる非現実感を巧みにストーリーの中に抽出し、読む者に本を愛で愉しむ喜びを与えてくれる。