読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

皆川博子「水底の祭り」

イメージ 1

 久しぶりの皆川博子である。昨年の10月以来だ。本書は著者の第二短編集だそうで、ぼくが読んだのは文春文庫版なのだが、いまでは絶版のようである。でも、安くで出回っているようなので比較的手に入りやすい本のようだ。本書に収録されている作品は以下のとおり。

「水底の祭り」

「牡鹿の首」

「紅い弔旗」

「鏡の国への招待」

「鎖と罠」

 それぞれ一言で説明できない感覚の横溢した相変わらずの短編ばかり。日常を逸脱した特殊な状況を描いているのが意欲が感じられて好ましい。例えば表題作では水底に沈んだ屍蝋が重要なキーワードとして登場するし、「牡鹿の首」では剥製師という特殊な職業を描いている。「紅い弔旗」ではマイナーな劇団が舞台になり、「鏡の国への招待」ではバレエの世界が描かれる。という具合にどの作品も変化に富んだ状況を設定している。そしてぼくが今回一番気に入ったのがラストの「鎖と罠」なのだが、ここでは話の構成自体に仕掛けがあって、これがなかなか印象的な効果をあげている。物語はいきなりロンドンのディスコで幕を開ける。ここで出会う男と女。どうやら女の方は日本人らしい。二人は意気投合するのだがここで物語は一旦リセットされ、今度は大勢のツアー客に詰め寄られる情けないツアー・コンダクターの場面になる。そこから話はそのツアコンの過去へと飛び、現在と過去が目まぐるしく入れ替わって歪んだ人間関係の相関が浮き彫りにされる奇妙な構図がはじめて露見するという趣向なのだ。確かに、この短編では後の作品群に見られるような洗練された技術の極みは感じられない。でも、それにも関わらず意欲におされた熱意のようなものが感じられてこの短編は尚更印象深いものとなっているのだ。

 ということで、久しぶりの皆川作品、またまた堪能したというわけ。いまのところぼくの印象では、やはり皆川博子は短編が素晴らしいように思うのだが、どうだろうか。あの「死の泉」をまだ読んでないのでなんともいえないのかもしれないけどね^^。