サマー・ブリーズは音の矢。鼓膜を突きぬけ、脳に突き刺さる。
ぼくは水パイプから得体の知れない煙を吸いながら、隣に侍らせたとびきりの美女の胸を弄んでいる。
気持ちはとてもハイ。こんなに素敵な気分になったことはない。
いきなり冷たい爪が手の甲に食い込む。傷つけられた爪痕から血がにじむ。どこからかダイアナ・ロスの「サマー・タイム」が聴こえてくる。哀しいような儚いような旋律が心地よく、その間だけサマー・ブリーズの矢が意識されなくなる。
「こんなになっちゃって」美女が言う。
「仕方ないじゃないか」ぼくは照れて気もそぞろ。
濃密な空気は、意識を遠のかせる。いったい今何時で、ここが何処かなんてどうでもよくなってくる。
さっきから水がチョロチョロ流れている音が旋律の裏側で聞こえていたのだが、なんだろう?
雪を口に含んだような口づけを受けて、その瞬間だけ脳にサマー・ブリーズが突き刺さる。
「もうダメ?」素敵な唇がささやく。
「ううん、大丈夫」ぼくは天にも昇る心地だ。
緑色したカラフルな鳥が飛んできて、ぼくの懐に飛び込んだ。これは、ぼくの子どもだ。最愛の子だ。
鳥は火傷するくらいに熱くて、ぼくの体温も一気に上昇する。汗だくになってきたぼくに美女が言う。
「ガマンできなかったら、いいのよ」
そこで、いきなり火のついたぼくは、美女を張り倒し、ひっくり返ったところを蹴ってやった。
ぼくは部屋を出てゆく。
懐には最愛の子。平和の象徴、緑の鳥。この子は誰にも渡さない。
たとえ死者が来たとしても。