読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

皆川博子「聖女の島」

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 なんとも不思議な感触の幻想ミステリだ。本書を読む者は、始終言い知れない『歪み』を感じることになる。まさしく本書は『信用できない語り手』の物語なのだ。なのに一見したところでは、その不安の正体が見定められないようになっている。そしてラスト、凄惨であまりにも静謐なラストの先には永遠に続く循環が待っている。

 悪意や狂気をストレートに感じさせない筆勢に惚れ惚れしてしまう。どうしたら、こういう風に書けるのか。描かれていることはこんなにも残酷で爛れているのに、その匂いを感じないのはどうしたわけか?

 おそるべし、皆川博子である。

 この人の本は、読む毎に驚きと興奮を与えてくれる。そこに広がる世界は尋常でなく恐ろしいのに、どうしても魅了されてしまう。悪魔に魅入られたら、こういう感じなのだろうか。って、それは失礼か^^。

 本書はいってみればクローズド・サークルのお話なのだ。孤島が舞台なのだから、王道だろう。だが並みの作家ならそこで恐怖を芯に据えた物語を紡ぐのだろうが、皆川博子は恍惚を描くのである。狂気に彩られた一人称。孤島に集められた放埓な少女たち。漂う妖気。血が流され、夢がくり返され、夜がまたやってくる。だがそこにはうっとりとした陶酔感が横溢し、恐怖よりも恍惚が勝るのである。本書が特異な点はそこにある。また、それは両刃の剣で本書の評価を隔てる大きな壁でもある。ちょっと横暴かもしれないが、本書を皆川作品の分水嶺にすると良いかも知れない。この作品が気に入った人、ようこそ、皆川ワールドへ。気に入らなかった人、さようなら。

 もちろん、ぼくは大変おいしく味わいましたとも^^。