読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

金城一紀「映画篇」

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これタイトルからは内容がわからないので、ほんと読んでみるまで雲をつかむような感じだったのだが、

二話目の「ドラゴン怒りの鉄拳」に突入したあたりから仕組みが見えてきて、興が乗りだした。

扉絵に手書き風のヘップバーンが描かれている『ローマの休日』の上映会ポスターがあるので、いったい

どういうことなんだろう?と思ってたのだが、そういうことか。なるほどね。本書は連作短編ってことな

んだ。

本書には五つの短編が収められている。それぞれ有名な映画のタイトルを冠した短編なのだが、それぞれ

主人公は違う。だが、物語の中では映画が重要な位置を占め、扉絵にある区民会館大ホールで行われる「

ローマの休日」の上映会の話が登場する。各短編、趣向が違っており、男同士の友情を描いたハードボイ

ルドな作品もあれば、製薬会社の薬害事件に巻き込まれ自ら命を絶った男の妻の再生を描く感動作もあり

、現金強奪を目論む高校生カップルのクライム風ストーリーもあれば、殺された家族のために復讐を果た

すおばちゃんといじめられっこの少年の交流を描いたなんともせつなく悲しい物語もある。

そして最後に、このすべての物語をつなぐ「ローマの休日」が、どういう経緯で区民会館大ホールで上映

されることになったのかがわかる物語「愛の泉」が配置される。この最後の話がとても愛らしくてあった

かくて、なかなか笑える話なので、最後はとても幸福な気分で本を置くことができるのだ。

これは一本とられてしまった。ぼくは作者の金城氏と同年代なので、ここに登場する数多くの映画のほと

んどを観てるのである。なつかしくて、楽しくて、思い出深い数々の映画たち。少しノスタルジックな気

分にさせてくれるこんな素敵な題材を無理なく物語に溶け込ませ、尚且つバラエティに富んだ趣向でがっ

ちり掴んではなさない。ラストですべてを集約させ、いままで感じた悲しい気持ちも一気に吹き飛ばすよ

うな素敵な物語を配置することで本を閉じたあとも続く長い余韻を味わえる。う~ん、素晴らしい。

これの前に出た「対話篇」がつい最近文庫になったけど、追っかけ、あれも読んでみようかな?あれの構

成も本書とよく似たものなのだろうか?う~ん、なかなか楽しくなってきましたぞ。