読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

遠野遥「教育」

教育

 中学生の頃のぼくなら、本書のような学校、まるで夢のような!と喜んでいたかもしれない。しかし、不惑もとうに過ぎ、還暦に一歩づつ近づいているこの歳になってみれば、あまり手放しで喜べない。

 なんせ、本書に登場する謎の学校は『一日に三回以上のオーガズム』を得ることで、成績が向上すると宣うのである。だから、生徒たちは男女共、気軽にSEXを楽しみ、学校側が提供するポルノビデオでせっせとオナニーするのである。いろいろ仕掛けてあるが、奥深くはない。何か意味が隠されているのなら、作者の力不足だろう。ここには、未来も過去もなく善も悪もない。システム化された閉鎖空間の中で、物語は、自らを増幅させ表層を塗りかためてゆく。オーガズムに支配された世界。空虚で感動が皆無の世界。

 だから、読者は始終手探りなのだ。それぞれの解釈が成立し、それぞれのイメージが再生される。彼らが目指しているのは、ESP能力。それは未知の世界であり、語られない物語が溢れている世界だ。しかし、そこには確立されているシステムがあり、登場人物たちはその中で頂点を目指して日々オーガズムを得ることに集中する。

 普通なら相反する事柄を並列に語ることによって、この世界は歪みを伴い成立する。歪みは違和感だ。しかし、その違和感は常に読む者の頭の中に居座っているのに、それを正面から見据えることなく物語は進んでゆく。淡々と、何事もなく。体液でソファが汚れようが、よだれの匂いをさせていようが、それは日常だ。

 この、なんとも不埒なのに平然としている世界がもどかしい。しかし、それが表面に浮上してこない。なんとも、クセのある作品だ。