読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

佐藤弓生「短歌百物語」

短歌百物語 (河出文庫 さ 57-1) 

 「短歌探偵タツヤキノシタ」の短歌にしびれて、そのながれで手に取ったのが本書である。佐藤弓生氏が選んだ九十九首の短歌に触発された物語プラス単独一編合わせて百物語なのである。

 正直、物語の方はあんまりピンとこなかったが、短歌には魅せられた。直感とセンス、言葉そのものの意味とインパクト。内包する物語は確かにあって、その感覚がぼくのものと呼応しなかったからピンと来なかったのだろう。九十九の短歌は、九十九人の短歌であって、知っている人知らない人様々おられる。この短い文章の中にどうしてこれだけ豊かなイメージが広がるのか。俳句はもっと短いけど、それでも鮮烈な印象を与えてくれるものね。まして短歌はあと十四文字も世界がふくらむのである。素晴らしい。

 それぞれの素晴らしい短歌は実際に本を読んで味わっていただくことにして、ぼく的には有名な山尾悠子や倉阪鬼一郎、中勘助、岡本かの子、柳田國男、夢野久作などより知らない歌人の作品のほうがゾクゾクした。なんでもない言葉や名称が合わさることによって生まれる不穏。言葉の絵面、どういう過程を経て生まれたのかと感心してしまう。有名どころで一人だけグッときた中島敦の『黒き人』という言葉の喚起するイメージの不気味さとかね。あってはいけないもの、見てはいけないもの、いてはいけないもの、そういった禁忌的な潜在が一気にたちあがってくる。

 例のごとくぼくも作ってみましたよ。   


 妹の白目に浮かぶ哀しみのかなしみ深し下着の血糊

 
 中指のなかほどにある五つの目、かたく閉じつつ六月の海

 
 かがんでも てのとどかない あなのおく おまえにたくす 父の遺骨よ